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生成AIと論文執筆

この本は LLM を相棒に書いています。 導入 に書いたとおり、構成と主張は僕のものですが、各章の文章の起草にはかなりの部分を任せました。 ですから、論文執筆に生成AIを使うこと自体を止めるつもりはありません。 ただ、論文は本の原稿とは違う制約のもとにあります。 立場としては一つだけです。 使うなら、どこまで使ったかを自分の言葉で説明できる状態にしておく

まず、自分が出す先の規定を読む

一般論から入らないでください。 使ってよい範囲を決めるのは、学会・雑誌・大学それぞれの規定です。 投稿先によって、補助的な利用まで認めるところ、開示を条件に認めるところ、特定の用途を禁じるところがあります。 学位論文なら、所属する大学や専攻の方針が別にあります。

方針はここ数年で何度も更新されてきましたし、これからも変わります。 だから、去年の投稿で確認したから今年も同じ、とは考えないでください。 投稿する時点の最新版を、自分で開いて読む 。 指導教員に「使っていいですか」と聞くのも大事ですが、規定を読んだうえで聞くほうが話が早く進みます。

開示を求められる場合がある

利用を認める代わりに、何をどう使ったかの記載を求める投稿先が増えました。 書く場所は、方法の節、謝辞、投稿システムのチェック欄など、投稿先によって指定が違います。

記載に必要なのは、どのツールを、原稿のどの作業に使ったか、です。 「英文の文法と語法の確認に使用した」「図の説明文の下書きの生成に使用し、著者が全面的に書き直した」といった粒度で書ければ足ります。 逆に言えば、開示の文が書けないような使い方をしたなら、そこは使い方のほうを見直す場面です。 自分が何をさせたのかを後から思い出せるように、記録を取りながら進めてください。

補助と生成の線引き

規定の書きぶりは投稿先ごとに違いますが、線が引かれる場所には共通の傾向があります。

英文の校正、文法と語法の確認、日本語から英語への下訳、言い回しの候補出し。 このあたりは、著者がもともと持っている内容を読める形に整える作業なので、比較的広く認められています。 英語を母語としない書き手にとっては、負担の差を埋める道具でもあります。

一方、関連研究の記述、結果の解釈、考察の組み立て、結論の主張。 ここは、内容そのものを作る場所です。 制限がかかりやすいのはこちら側ですし、規定が許していても、任せた分だけ後で困ります。 自分が持っている内容を通りやすい言葉にするのか、持っていない内容を作らせるのか 。 この問いを自分に向けると、たいていどちら側の作業かはわかります。

事実と引用は捏造される

生成された文章には、存在しない論文が混じります。 実在する著者名と、実在しない題名の組み合わせ。 形式は正しいのに、どこにもつながらない DOI。 それらしく見えるので、確認せずに通すと、参考文献リストに幽霊が並びます。

生成された文献は、一件残らず原典に当たってください。 DOI を開いて、論文そのものを見て、引用しようとしている主張がその論文に書いてあることを確認する。 「そういう論文がありそうだ」と「その論文がある」は別です。 数値、年号、人名、手法の由来も同じで、もっともらしい間違いのほうが、明らかな間違いより危険です。

入力してよいデータかを考える

未公開のデータ、査読中の自分の原稿、共同研究先から預かった情報、実験参加者の個人情報。 これらを外部サービスに入力してよいかは、規定と契約の問題です。 入力した内容がモデルの学習に使われる設定になっていることもありますし、大学が契約している環境なら扱いが違うこともあります。

査読を引き受けた他人の論文は、特に気をつけてください。 査読原稿は預かりものなので、要約や下訳のためであっても外部に出すのは守秘義務に反します。 多くの雑誌が、査読での生成AI利用を明示的に制限しています。

共著論文なら、自分ひとりの原稿ではありません。 どこまで使うかは、事前に共著者と合意しておいてください。 後から「あの原稿をそのツールに入れたのか」という話になると、内容とは無関係のところで信頼が崩れます。

自分の理解を通っていない文章は、審査で答えられない

卒業論文や修士論文は、学位論文の構造 で書いたとおり、理解と力量の証明書でもあります。 口頭審査では、なぜこの手法を選んだのか、この用語はどういう意味か、この段落の主張の根拠はどこか、と聞かれます。 自分の頭を通っていない文章は、その場で答えられません。 審査員は、書いた本人が説明できない文章をすぐに見つけます。

点検のしかたは簡単です。 自分の原稿の段落を一つ選んで、画面を閉じて、口で説明してみる。 説明できないなら、その段落はまだあなたの文章になっていません。 書き直すか、理解し直すかのどちらかをしてから先に進んでください。

著者になるのは人間だけ

多くの学会と雑誌が、生成AIを著者として記載することを認めていません。 理由ははっきりしていて、著者とは内容に責任を負う立場だからです。 問い合わせに答えること、誤りを訂正すること、データの出どころを保証すること――ツールはこれをしません。

だから、書かれた内容の責任は、すべて人間の側にあります 。 捏造された引用が残っていれば、それはあなたの原稿の誤りです。 どこかの文章に似すぎていれば、それはあなたの盗用です。 「そう出力されたので」は弁明になりません。

裏を返せば、責任の所在を自分で引き受けられる範囲であれば、道具として使えばいい。 どこまで使ったかを言えて、書いたことを説明できて、事実を自分で確かめてある。 この三つが保てているなら、使うか使わないかは方法の選択の問題です。