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コラム:「書けない」から「書ける」への転換点

多くの研究者が、深刻な「書けない」状態を経験します。 研究データは十分にあり、分析結果も興味深いものが得られているのに、 いざ論文を書こうとすると、全く筆が進まない。

パソコンの前に座って、真っ白な画面を見つめること数時間。 「イントロダクションをどう書き始めれば...」「この結果をどう説明すれば...」 そんなことを考えているうちに一日が終わってしまう、そんな日々は珍しくありません。

「他の人はどうやって論文を書いているんだろう」 そんな疑問から、指導教員に相談する人も多いでしょう。 「論文を書くのが怖いんです。完璧でない文章を書くのが不安で...」

よく返ってくる答えは、意外にも単純なものです。 「最初から完璧な論文を書こうとするから書けない。 まずは思ったことを、とにかく文字にしてみなさい」

「でも、学術論文なので、きちんとした文章でないと...」という反応に対して、 「『きちんとした文章』は最後に作るもの。 最初は自分にしか理解できないメモでもいいから、思考を言葉にする練習をしよう」

このアドバイスを受けて、執筆スタイルが劇的に変わる人は多くいます。 「論文を書く」のではなく、「自分の研究について自分に説明する」 という気持ちで文字を打ち始めるのです。

「この実験では〇〇を調べようと思った。なぜなら△△だから。 結果は××だった。これは面白い。なぜなら...」 といった具合に、口語的で informal な文章から始める。

驚くべきことに、この「雑談調」の文章は、どんどん書けるものです。 一度書き始めると、次々にアイデアが浮かび、 気づけば数ページものメモができていることがあります。

このメモを元に、今度は「読者に説明する」つもりで書き直します。 専門用語を加え、論理的な構成に整理し、先行研究との関連を明確にする。 この段階では、すでに書くべき内容が明確になっているので、 作業としては翻訳に近い感覚になります。

この経験から、論文執筆が「思考→言語化→構造化→洗練」という 段階的なプロセスであることを実感できます。 一度にすべてを完璧にしようとするから、身動きが取れなくなるのです。

効果的な執筆プロセスは以下のように整理できます:

第1段階:「自分への説明」として、思ったことを自由に書く 第2段階:読者を意識して、論理的な構成に整理する 第3段階:学術的な表現に洗練し、引用や図表を整える 第4段階:声に出して読み、流れと表現をチェックする

各段階で求められるスキルが違うので、 一つずつ集中して取り組むことができます。

また、「完璧でない文章を書く勇気」も身につけることが重要です。 最初のドラフトは誰にも見せるものではありません。 思考の「下書き」として、自由に、時には乱暴に書いてもよいのです。

この考え方の転換により、「書けない」ことへの恐怖がなくなります。 むしろ、書くことが思考を整理し、新しいアイデアを生む 創造的な作業だと感じられるようになるのです。

よく伝えられるアドバイスは以下のようなものです。 「まず書いてみること。完璧でなくてもいいから、 思考を言葉にする練習から始めよう」

執筆は技術ですが、それ以前に勇気の問題でもあります。 不完全でも書き始める勇気があれば、 必ず「書ける」ようになるのです。