イントロダクションの構成
「イントロダクションが書けない…」これは研究を始めたばかりの人が必ずといっていいほど直面する壁です。真っ白なページを前に、「どこから始めればいいのかわからない」「何を書けばいいのかわからない」という思いを抱いたことはありませんか。
実は、イントロダクションには明確な役割と構造があります。それは読者を「あなたの研究の世界」へと導き入れ、「なぜこの研究が必要なのか」を説得することです。この章では、説得力のあるイントロダクションを書くための構造と技法を解説します。
イントロダクションが果たす三つの役割
読者に現状を理解してもらう
イントロダクションの最初の役割は、読者に「今、世界では何が起こっているのか」を理解してもらうことです。あなたの研究分野において、どのような問題が存在し、なぜそれが重要なのかを説明します。
例えば、オンライン学習に関する研究であれば、「コロナ禍以降、オンライン学習が急速に普及したが、学習者の理解度把握が困難になっている」といった現状から始めることができます。ここで重要なのは、読者が「確かにそれは問題だ」と感じられるような状況説明をすることです。
既存の取り組みとその限界を示す
次に、その問題に対してこれまでどのような取り組みがなされてきたかを整理し、それでもなお残されている課題や限界を明らかにします。これが文献レビューの部分です。
ここでの目標は、既存研究を否定することではありません。むしろ、先行研究の価値を認めつつ、「それでもまだ解決されていない課題がある」ことを示すのです。読者に「なるほど、確かにまだやるべきことがあるんだな」と思ってもらうことが重要です。
あなたの研究の価値を宣言する
そして最後に、本研究によって何を明らかにし、どのような貢献をするのかを明確に宣言します。これまでの流れを受けて、「だからこそ、この研究が必要なのです」という論理的な帰結として示します。
効果的な導入の技法
身近な例から始める
読者の関心を引くために、身近で具体的な例から始めることは効果的です。専門的な話に入る前に、読者が「自分にも関係のある話だ」と感じられるような導入を心がけましょう。
「大学生の多くが、オンライン授業で集中力を維持することの難しさを経験している」というような書き出しは、多くの読者にとって身近に感じられる例です。
統計や事実で問題の大きさを示す
問題の深刻さや規模を示すために、客観的なデータを用いることも有効です。ただし、数値の羅列にならないよう、その数字が何を意味するのかを説明することが重要です。
「2020年以降、オンライン学習を導入した教育機関は全体の80%に達している(文部科学省, 2021)。しかし、その一方で学習効果に関する懸念も高まっている」といった具合に、数字と問題意識を結びつけます。
研究問いを明確にする
イントロダクションの最後では、あなたの研究問いを明確に示します。「本研究では、〜を明らかにすることを目的とする」という形で、研究の焦点を絞り込みます。
ここで注意したいのは、研究問いが大きすぎないことです。一つの研究で解決できる範囲内に収まるよう、適切に焦点を絞りましょう。
文献レビューの効果的な書き方
イントロダクションの中核を成すのが文献レビューです。これは単なる先行研究の要約ではなく、あなたの研究の必要性を論理的に導き出すための重要な部分です。
テーマ別の整理
関連研究を年代順に羅列するのではなく、テーマごとに整理して紹介します。「学習者の動機づけに関する研究」「学習効果の測定に関する研究」といった具合に分類し、それぞれの分野での知見と課題を明らかにします。
批判的な視点
先行研究を紹介する際は、その貢献を認めつつも、批判的な視点を持つことが重要です。「この研究は〜について重要な知見を提供したが、〜の点で限界がある」という形で、客観的に評価します。
あなたの研究への橋渡し
文献レビューの最後では、これまでの整理を踏まえて、あなたの研究がどのような位置づけにあるのかを明確にします。「以上の先行研究を踏まえると、〜の点でさらなる研究が必要である」という形で、自然に自分の研究の必要性へと導きます。
よくある問題と対策
範囲が広すぎる
イントロダクションで扱う範囲が広すぎると、焦点がぼやけてしまいます。あなたの研究に直接関連する部分に絞って記述しましょう。
既存研究の紹介が浅い
時間の制約から、既存研究の紹介が表面的になってしまうことがあります。数は少なくても、重要な研究については詳しく検討し、その意義と限界を丁寧に分析しましょう。
自分の研究の新規性が不明確
最後に、あなたの研究が既存研究とどう違うのか、どのような新しい価値を提供するのかを明確にすることを忘れずに。この部分が曖昧だと、研究の意義が伝わりません。
イントロダクションは論文の入り口です。読者がここで興味を失ってしまえば、その後の素晴らしい内容も読んでもらえません。時間をかけて丁寧に作り上げることで、あなたの研究の価値を最大限に伝えることができるでしょう。