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タイトル・アブストラクト

論文を書き始めるとき、多くの人が最初に悩むのがタイトルです。「どんなタイトルをつければいいんだろう?」「インパクトのある言葉を使った方がいいのかな?」そんな迷いを抱えたことはありませんか。

実は、タイトルとアブストラクトは論文の「顔」であり、読者が最初に目にする重要な部分です。どれほど素晴らしい研究をしても、タイトルとアブストラクトが魅力的でなければ、多くの人に読んでもらえません。この章では、効果的なタイトルとアブストラクトを書くための考え方とコツを解説します。

タイトルに込めるべきもの

内容の正確な反映

タイトルは論文の内容を正確に反映する必要があります。読者がタイトルを見ただけで、この論文が何について書かれているのかを理解できることが重要です。

例えば、「学習支援システムの開発」というタイトルは漠然としすぎています。「どのような学習を支援するのか」「どのような特徴があるシステムなのか」「誰を対象にしているのか」といった情報が含まれていません。

一方、「小学生の算数学習における誤答分析に基づく個別指導システムの開発と評価」というタイトルであれば、対象(小学生)、分野(算数)、アプローチ(誤答分析)、成果物(個別指導システム)、そして研究の範囲(開発と評価)が明確になります。

検索されやすさへの配慮

現代では、多くの研究者がオンラインデータベースでキーワード検索によって論文を探します。あなたの論文を必要としている人に届けるためには、適切なキーワードをタイトルに含める必要があります。

ただし、キーワードの詰め込みは逆効果です。自然で読みやすい文章の中に、重要なキーワードを自然に組み込むことを心がけましょう。

簡潔さと具体性のバランス

タイトルは簡潔である必要がありますが、同時に具体的でもなければなりません。一般的に、15〜20語程度が適切とされていますが、内容を正確に伝えるためであれば、多少長くなっても構いません。

重要なのは、不要な修飾語や曖昧な表現を避け、核心的な内容を端的に表現することです。

アブストラクトの構造と役割

アブストラクトは論文全体の縮図です。読者がアブストラクトだけを読んでも、研究の全体像を理解できるように書く必要があります。

研究の背景と目的

まず、なぜこの研究が必要なのかを簡潔に説明します。現在の問題状況や既存研究の限界を1〜2文で示し、本研究の目的を明確に述べます。

「近年、オンライン学習の普及に伴い、学習者の理解度を適切に把握することの重要性が高まっている。しかし、既存の学習システムでは個々の学習者の誤解パターンを詳細に分析する機能が不十分である。本研究では、誤答分析に基づく個別化学習支援システムを開発し、その効果を検証することを目的とした。」

方法論の要点

どのようなアプローチで研究を行ったかを簡潔に述べます。詳細な手順は不要ですが、読者が研究の信頼性を判断できる程度の情報は必要です。

主要な結果

具体的な数値や発見を含めて、研究の主要な結果を報告します。曖昧な表現ではなく、可能な限り具体的なデータを示しましょう。

結論と意義

研究の結論と、それが分野全体や実践にとってどのような意義を持つかを述べます。

よくある落とし穴とその対策

タイトルでの注意点

過度に技術的な専門用語の使用は避けましょう。その分野の専門家以外には理解できないタイトルは、論文の読者層を狭めてしまいます。可能な限り、より広い読者に理解してもらえる表現を心がけます。

「〜に関する研究」という表現も避けた方がよいでしょう。これは何も情報を付け加えない冗長な表現です。研究であることは論文の性質上当然なので、わざわざ明記する必要はありません。

アブストラクトでの注意点

結果の詳細な説明に紙面を割きすぎないよう注意しましょう。アブストラクトの目的は詳細な結果報告ではなく、研究全体の概要を伝えることです。

新しい情報の追加も避けるべきです。アブストラクトには、論文本文に含まれていない情報を含めてはいけません。

執筆のタイミングと改善プロセス

多くの人がタイトルとアブストラクトを最初に書こうとしますが、実は論文の本文を書き終えてから最終的に仕上げる方が効果的です。研究の全体像が明確になってから書くことで、より正確で魅力的なタイトルとアブストラクトを作成できます。

初稿を書いた後は、同僚や指導教員に読んでもらい、フィードバックを求めましょう。「このタイトルを見て、どんな内容の論文だと思いますか?」「アブストラクトを読んで、この研究の価値がわかりますか?」といった質問をすることで、改善点を見つけることができます。

研究の顔ともいえるタイトルとアブストラクト。丁寧に作り込むことで、あなたの研究がより多くの人に届き、学術コミュニティへの貢献を最大化することができるでしょう。