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良い人生とは何か

研究を続けるかどうか、どんなテーマを選ぶか、博士に進むか——そのどれもが、結局のところ「あなたはどんな人生を送りたいのか」という問いと地続きになっています。ここを曖昧にしたまま技法の話に入ってしまうと、手は動くけれど心がついてこない、という状態に陥りがちです。研究は短距離走ではなく、何年もかけて続けていく長い旅なので、出発点で軸がずれていると、途中でじわじわとしんどくなってきます。

研究を続けていれば、博士課程の途中で何度か「自分はなぜこれをやっているんだっけ」と立ち止まる瞬間が来ます。論文が通らない時期、テーマがうまく転がらない時期、まわりが先に就職していく時期。そのたびに支えになるのは、研究の技術や進捗ではなく、「自分はこういう人生を送りたいんだ」という、自分の中にある小さな旗のような感覚です。技術はその旗を立てたあとで身につければいい、というのが、僕の率直な実感です。

この章では、その「旗」を立てるための入り口を二つ用意しました。ひとつは人生と生き方で、自分の生き方を自分で選ぶとはどういうことか、主体性をめぐる話をします。もうひとつは仕事と意味で、人生の大きな部分を占める仕事に、どう意味を持たせるかという話。研究という仕事の特異性にも触れます。最後にコラムでは、大学という場を「使い倒さずに過ごす」ことについて、少し辛口の問いかけをしています。

この本全体を通して、僕は「積極的に生きる」という姿勢を推しています。これはポジティブ思考のことではありません。自分で問いを立て、自分で価値を定義し、自分の選択に責任を持つ、という地味で骨の折れる態度のことです。研究者という営みは、この姿勢をもっとも色濃く、しかも日常的に表現できる場のひとつだと僕は思っています。