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やること・やらないことの決め方

時間管理の質を本当に決めているのは、何をやるかのリストではなく、何をやらないかを決められるかどうかだと、僕はだんだん考えるようになりました。やることのリストはいくらでも長くできます。問題は、その長いリストの大半をどう見送るか、見送ったうえで残った数本に時間を集中させられるか、という方にある気がしています。

研究の世界では、これは特に効いてきます。研究に関わる活動はどれも「やれば何かにはなる」ものばかりだからです。追加の分析、気になっていた論文、頼まれた勉強会の発表、他研究室とのコラボの誘い。どれも完全な無駄ではないので、断る理由を見つけにくい。気がつくと、自分の研究の中心ではない用事ばかりが机を占領していて、肝心の問いに割く時間が一日のすき間しか残っていない、ということが起こります。

「やる」「やらない」の自分の基準を言葉にする

そうならないために役立つのは、自分なりの判定基準を、あらかじめ言葉にしておくことです。判断のたびにゼロから考えていると、その場の人間関係や気分に流されます。基準があれば、目の前の依頼を眺めたときに「これはどこに当てはまるか」を当てはめるだけで済みます。

僕がここ数年、頭の中で使っている「やる」側の基準は、ざっくり次の三つです。一つ目は、自分の研究の核となる問いに直接つながっているか。二つ目は、自分が研究者として伸びていくために、今の時点で必要な経験か。三つ目は、研究室やチームにとって価値があり、しかも自分がやることに意味があるか。三つともゼロなら、たいてい受けない方がよい依頼です。逆に二つ以上重なっていれば、忙しくても優先度を上げて引き受ける、という判断ができます。

「やらない」側にも、同じくらい言葉にしておきたい基準があります。緊急性は高いが自分にとっての重要度が低いタスク、つまり他人の都合に巻き込まれた雑務。自分の研究の方向性から明らかに外れている依頼。そして、仕上げの精度を上げ続けるだけで、もう成果には寄与しない完璧主義。最後の一つは厄介で、「やる」のように見えて、実は「やらない」と判断すべき領域に入ります。

この基準は石に刻むようなものではなく、半年か一年に一度、自分の研究フェーズに合わせて書き換えていくくらいで十分です。テーマが変われば軸も変わるし、立場が変われば「自分がやる意味」の中身も変わります。基準を持つことそのものより、基準を更新し続ける習慣の方が大事だと、今は思っています。

断ることは、研究の質を守ること

学生や若手の時期にいちばん難しいのは、「頼まれたら応えなきゃ」という反射です。僕自身、そこから抜けるのにずいぶん時間がかかりました。すべてに応じ続けると、まず削られるのは自分の研究の時間で、しかも削られたことにすら気づきにくい。気づくのは、半年後に何も形にならなかったときです。

ただ、断ることに対して気が重くなるのは、たいてい「冷たく拒絶することになる」と感じているからだと思います。それは断り方のイメージが古いだけで、実際にはもっと柔らかい断り方ができます。僕がやっているのは、まず一呼吸置いて「これは自分の研究や成長につながるか」を考えてから返事をすること。受けられない場合は、なぜ受けられないかを短く添えて、丁寧に伝える。そして可能なら、時期をずらすか、別の形を提案する。「今月はどうしても難しいのですが、来月の後半なら相談できそうです」と一言添えるだけで、相手の受け取り方はかなり変わります。

断ることを「相手への拒絶」ではなく、「自分の研究への責任の取り方」として捉え直すと、心理的なハードルは下がります。あなたが受けるか受けないかを決めているのは、相手との関係そのものではなく、自分が今投じるべき時間の使い道だからです。

小さな決断を毎日積み重ねる

優先順位の仕事は、四半期や年単位で一度決めて終わりではありません。むしろ、毎日「今日はこれをやらないと決める」という小さな決断を積むほうに、本当の効き目があります。

たとえば、僕は論文を集中して読みたい日には、Slackの通知を午後まで開かないようにしています。データ分析に没頭したい週には、学会関連の準備や事務仕事を翌週に寄せます。逆に、原稿の締め切りが迫っている週は、新しい論文を読むのを我慢して、書く方だけに時間を使う。これらは別に大げさな宣言ではなく、その日の朝にメモ帳の隅に一行書く程度のものです。

こういう小さな線引きが一年積み重なると、研究者としての時間の質は、確実に変わってきます。逆に、毎日「今日は何をやらないか」を決めずに過ごしていると、来た仕事を順番に処理しているだけで日が暮れます。一日の終わりに、「今日は何をやったかは思い出せるけれど、何を選んでやったのかは答えられない」――そういう状態が続くと、研究は進んでいないことが多いと、僕は経験的に思います。

やらないことを決めるのは、研究室の仲間や指導教員に対する冷たさではなく、自分の問いに対する誠実さの一部です。あなたが研究者として大事にしているものを守るための、地味で、けれど一番効く技術だと考えてください。