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改善サイクルを回す方法

前節の振り返りは、自分の時間の使い方を観察するところまでの話でした。ここからは、それを受けて「どう変えていくか」という改善の話です。第2章の「進捗の可視化と調整」が、計画中のプロジェクトを軌道に戻すための短い周期の話だったのに対し、この節は、もっと長い周期で、自分の働き方そのものを更新し続けるためのサイクルを扱います。研究という長丁場では、一回の改善で何かが劇的に変わることはほとんどなく、地味な更新を続けられるかどうかが、十年単位での違いを生みます。

改善は一度では終わらない

時間管理の改善で陥りがちなのが、「一度見直して終わり」にしてしまうことです。学期の合間や年度の境目に大きな反省をして、立派な計画を立てて、しばらくは続く。でも数週間すると、もとのパターンに戻っている。年が明けて二月頃に、自分の決意を思い出して苦笑いをする――こういう経験は、研究者に限らず誰にでもあると思います。

これは意志が弱いからではなく、改善を「単発のイベント」として扱ってしまっているからです。本当の意味で効くのは、計画→実行→振り返り→修正を、小さな単位で繰り返すサイクルを持つこと。研究そのものが仮説検証の繰り返しであるのと、構造はまったく同じです。研究のなかでは仮説を回せるのに、自分自身の働き方となると一度の決意で何とかしようとする――これは多くの研究者がはまる罠だと思います。

あなたの働き方を、研究対象と同じくらい丁寧に扱ってみてください。実験で一発で結論を出そうとしないのと同じで、自分の働き方の改善も、一発で正解にたどり着く必要はありません。

小さく試して、結果を残す

改善サイクルの基本は、小さな変更を試して、その効果を見ることです。たとえば、午前中に頭を使う作業をまとめてみる。午後はメール返信や雑務に寄せてみる。SNSを見る時間を夕方に固めてみる。昼食後の三十分は仮眠を入れてみる。アラーム音を変えてみる、机の位置を変えてみる、研究室で書く日と家で書く日を分けてみる。どれも地味な変更ですが、自分にとって効くかどうかは、やってみないと分かりません。

やってみたら、短くメモを残しておきます。「これを試した結果、午後の集中度が上がった」「昼食後の作業は不向きだった」「家で書く日は朝のうちに片付けが要る」といった具合です。こういうメモが半年も溜まると、自分専用の「何が効くか辞典」ができあがります。これは、市販の時間管理術より、はるかにあなたの研究生活に役立ちます。なぜなら、それはあなた自身を被験者として得たデータの集積だからです。

ここで僕が大事にしているのは、変更を一度に複数入れないことです。三つも四つも同時に試すと、何が効いて何が効かなかったかが分からなくなります。実験計画と同じで、変数は少なく、観察期間は短すぎず、というのが基本になります。

完璧を目指さない、改善疲れに気をつける

注意したいのが、改善疲れです。完璧主義の人ほど、「最適解」を求めすぎて、かえって何も変えられなくなります。あるいは、いろんな手法を片っ端から試して、それ自体が負担になり、本業の研究が止まる、ということも起こります。新しい時間管理アプリを試したくて、設定に半日溶かしたあげく、その日は研究がほとんど進まなかった、というのもよくある「ツール沼」の典型例です。

ここで意識したいのは、「完璧を目指さず、七割の改善でよしとする」というゆるさです。今のやり方より少しだけ良くなったらそれで合格、という基準にしておく。残りの三割は、また次の機会に回せばいい。研究と同じで、自分の働き方も完成しないものだからこそ、完成させようとしないのが続けるコツです。

それから、忙しさに流されて振り返りや改善自体を忘れないために、改善のタイミングを自分のカレンダーに予約しておくのが現実的です。週末の三十分、月末の一時間、四半期の終わりに半日。決め打ちで予定を入れてしまうと、「気が向いたらやる」よりはるかに続きます。改善は気合いで起こすものではなく、習慣として降ってくるようにする方が長持ちします。

他者の視点を入れる

改善は、一人で回すより、他者の目を入れる方が加速します。自分のパターンを自分で発見するのには限界があります。バイアスがかかっているし、慣れてしまっているから違和感を持てない部分もある。友人や同僚と「お互いの時間の使い方を話す会」を短く持ったり、指導教員に相談したりすると、自分では見えていなかった視点が入ってきます。

僕自身、同僚と雑談しているなかで「それ、午前にまとめた方がよくない?」と何気なく言われて、自分の働き方の癖に気づいた経験が何度もあります。自分の中では当たり前だと思っていたパターンが、外から見ると最適化の余地だらけだった、ということはよくあります。

研究室のなかで、進捗共有の機会を改善の場としても使うのも、よい方法です。進捗だけでなく、「今週の働き方のなかで、よかったこと、悪かったこと」を一言ずつ言う、というだけでも、研究室の文化は少し変わります。お互いの働き方を観察し合える関係は、競争よりずっと長持ちする支え合いになります。

長い目で見れば、研究者としての成熟は、結局のところ、こうした地味な観察と更新の積み重ねの先にあります。派手な革新はめったに起きません。けれど、小さな改善を続けていれば、五年後のあなたは、今のあなたより明らかに広い視野で時間を扱えているはずです。