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自分の時間の使い方を振り返る

研究を続けていくうえで、自分の時間の使い方を振り返る習慣は、単なる効率化の小技ではなく、自己理解や研究者としての成熟に直結します。研究という、ゴールが曖昧でいつまでも続けられる仕事では、自分で自分を観察して舵を取り直す力――いわば自己調整の力――が、そのまま成果を左右することが少なくありません。指導教員が一日中横に座っていて指示を出してくれるわけではないからこそ、あなた自身が自分のオブザーバーにならざるを得ない。

ここでは、その振り返りをどのように始め、どう続けるかを扱います。第2章で扱った「進捗の可視化と調整」が現在進行中のプロジェクトを軌道に戻すための短い周期の話だったのに対し、この節はもう一段引いた視点から、自分の時間の使い方そのもののパターンを見直す話です。

主観と実態は、思った以上にズレる

最初にやってほしいのは、自分が時間をどう使っているかを、見える形で記録することです。ここは驚くほど見落とされます。

人は主観的な感覚で「今日は頑張った」「全然できなかった」と判断しがちですが、その感覚は実態とかなりズレています。「午前中は研究に集中するつもりだったのに、結局メールと雑務で終わっていた」「午後からやる予定だった作業が夜に押し込まれていた」「集中して書けたつもりだったのに、ログを見ると実質一時間しか書いていなかった」――あなたも心当たりがあるはずです。

このズレに気づくには、日々の活動を細かく記録し、後からカテゴリ別にざっくり眺める必要があります。手帳でも、Googleカレンダーでも、タスク管理アプリでも、紙のノートでも、道具は何でも構いません。大事なのは、後から「自分の一週間はどう使われたか」を眺められる状態にしておくことです。僕も、研究を始めた頃は記録をほとんど取らず、「なんとなく頑張った気がする」だけで一年が過ぎていきました。一週間分のログを見える形で残し始めて、初めて「自分は思っていたより会議に時間を吸われている」ということに気づきました。

研究者にとって「自分の行動をデータ化する姿勢」は、自分自身を研究対象として扱う練習でもあります。あなたという被験者を、少し冷静に観察してみるつもりで取り組むと、変な自己嫌悪に陥らずに済みます。

ログを取り続けていると、しばらくして「自分はこういう癖を持っているらしい」というパターンが見えてきます。「文献を読むのは午前中じゃないと頭に入らない」「ゼミがある日の午後は、書く作業より図を描く作業のほうが進む」「コーヒーを淹れた直後の30分は、仕様の細部を詰めるのに向いている」——人によって出てくる癖は違います。こういうものは「弱さ」ではなく、自分という個体の仕様の話で、仕様に逆らった働き方をしていると、同じ時間をかけても産出は伸びません。仕様が見えてきたら、それに沿うように一日の組み立てを直していく。振り返りの本当の見返りは、その日の効率化の小技より、こちらの 「自分の仕様書」が少しずつ手元に育っていくこと のほうにあります。

責めるのではなく、問いかける

記録が二週間ほど溜まってきたら、そこに問いを投げます。「なぜそうなったのか」「他にやりようはなかったか」「自分はどんな種類の作業に時間を吸われやすいのか」。ここで決定的に大事なのは、責めるのではなく問いかける、という態度です。

たとえば、集中できなかった時間帯があったときに、「なぜダメだったんだ」と自分を責めるのではなく、「どうすれば次はもっと集中できるだろう」と聞き直す。あるいは、本来やるべきでなかった雑務に時間を取られていたと気づいたら、「そもそもそのタスクは、外注したり省略したり、引き受けるのを断ったりできなかったか」を考える。観察した事実から、次の行動につながる仮説を立てる。これが振り返りの本質です。

振り返りは反省会ではなく、次の行動のための仮説を立てる場だ、という言い方を僕はよくします。反省会のモードに入ると、自分を責めることが目的化して、実際の行動は変わりません。仮説のモードに入れば、観察した事実は、責める材料ではなく試行錯誤のための材料になります。続けるうえで、この姿勢の差はかなり大きく効いてきます。

続けられる粗さで、毎日少しずつ

日々の忙しさのなかで、振り返りを続けられる人は意外と少ないものです。だからこそ、続けられると、それ自体が差になります。長く立派な振り返りを月に一度書くより、雑でもいいから毎日数行のメモを残す方が、たいていの場合は効きます。

僕も、一日の終わりに「今日の差分」を短く振り返るようにしています。予定通りに進んだところ、ズレたところ、その理由。長い文章は書きません。三行から五行で十分です。これは、「できなかった自分」を責めるためではなく、「次にどうするか」に頭を切り替えるための儀式のようなものです。寝る前にこれを書くと、翌朝の机に向かったときの動き出しがスムーズになる、という副次的な効果もあります。

ここで扱っている振り返りは、次の節で出てくる「改善サイクル」の前提になる行為です。振り返らなければ、改善するものも見つかりません。逆に、振り返りが習慣になっていれば、改善のネタはいくらでも自分の手元に積み上がっていきます。

そしてもう一つ、振り返りの効用は効率化や改善だけにとどまりません。日々の自分を眺める時間を持てると、漠然とした不安や焦りが、扱いやすい具体的な課題に変わっていきます。「なんとなく研究が進んでいない気がする」という靄のかかった感覚は、つきあうのが難しいものですが、ログとして見えるようになれば、対処できる問題に変わる。振り返りが研究者のメンタルを支える側面は、長く続けるほど大きく感じるようになります。