第3部:研究実践の流れ

ここまでの第1部・第2部では、「研究とは何か」「なぜ研究をするのか」という、いわば足元の問いを一緒に掘ってきました。第3部からは話の重心が大きく動きます。ここから扱うのは、研究という営みの実際の進め方――テーマを決めるところから、日々の進捗、学会発表や論文化、そしてその先に控える次の問いまで、一本の流れとしての研究です。
この第3部を書いていて何度も自分に言い聞かせたのは、「これは技法書ではなくプロセスの地図だ」ということでした。論文の書き方や図表の作法、発表時のスライド設計といった具体的な技法は第5部と第6部に回しています。ここで知ってほしいのは、それらの技法を、研究という長い旅のどこで、どんな顔をして取り出すのか――つまり、技法以前の流れの方です。技法そのものは、流れが見えてきた後で各自が身につけていけば十分だと、僕は思っています。
この部でたどる道のり
研究という営みは、人によって順番も粒度も違いますが、それでも大筋ではいくつかの局面を通過します。第3部では、その局面を四つに分けて順番に歩いていきます。
最初は 研究テーマを決める 局面です。配属直後の真っ白な気持ちのまま、自分の素朴な「なぜ」を学問の世界に位置づけ、限られた時間で前に進める計画に翻訳していく。ここで僕がいちばん伝えたいのは、テーマは「ひらめきで決まる」のではなく、「文献を読んで・話して・書きながらゆっくり輪郭を出していく」ものだということです。
次に来るのが 日々の研究の進め方 です。実は研究の九割以上は、この地味な日常で決まります。進捗を整え、メンターと対話し、ゼミで議論する。華々しい発見の手前に積み上がっている、小さな観察と記録の積み重ね方を扱います。
そして三つ目が 研究発表と論文化 の局面です。学会発表、論文執筆、査読対応。研究を外に出す作業はどれも緊張をともないますが、僕はこれを「自分の研究を磨き直す装置」として捉えてほしいと思っています。
最後に、ひと区切りついた研究の続きをどう描くか――新しいテーマへの展開 を考えます。研究は点ではなく、問いと答えがつながっていくサイクルです。次の問いをどう立てるかは、研究者として歩き続けるうえでとても大きな分岐点になります。
計画通りには進まない、という前提で
研究は、計画どおりにはまず進みません。実装が思ったより難しかった、被験者が集まらなかった、新しい論文が出てきて前提が変わった——そういう想定外は毎月のように起きます。
でも、僕は長くこの仕事をやってきて、計画が崩れる瞬間ほど学びの濃い場面はないと感じています。崩れて、立て直して、また崩れて、また立て直す。そのつど自分の問いと向き合い直すことそのものが、研究という行為の中身でもあります。
この部を読み終えたとき、あなたが研究のプロセスを「作業の連続」ではなく 自分の問いが育っていく過程 として眺められるようになっていたら、僕としてはこの上なくうれしいです。