コラム:あなたにとっての研究 ― 古池の場合
私にとっての研究の原点は、子ども時代の遊びにあります。 小さな頃、私はレゴブロックに夢中でした。 寝転がりながら何時間も遊び続け、組み立て、組み替え、また壊しては新しく作り直す。 「つくること」「組み合わせること」の楽しさに心を奪われていました。
大学に入り、研究を始めた頃、ふとこんなことを考えました。 「知識って、レゴブロックみたいだったらいいのに」。 必要な場面で自由に組み替え、状況に合わせて新しい形にできる知識。 この発想が、私の最初の論文のテーマを生み出しました。
調べていく中で、心理学や認知科学の世界では「チャンク(chunking)」という概念があることを知ります。 意味のあるまとまりとして情報が組織化され、状況に応じて再利用される仕組みです。 さらに、当時流行していたScratchというブロック型のプログラミング環境は、 問題解決の手続きを視覚的にブロックとして組み立てる点で、私の関心をさらに刺激しました。
驚いたのは、こうした私の関心が、教育学や人工知能研究の系譜と深く結びついていたことです。 初期のプログラミング教育の草分けであるLOGOを開発したのは、数学者であり教育学者のシーモア・パパート(Seymour Papert)。 彼は構成主義の立場から、子どもたちが自分で考え、作り、学ぶことの重要性を説き、著書『Mindstorms: Children, Computers, and Powerful Ideas』でその思想を世に広めました。 このタイトルが後に、プログラム可能なレゴ製ロボット教材「LEGO Mindstorms」の名前の由来となります。
さらに興味深いのは、パパートが人工知能研究の先駆者マービン・ミンスキーとともに、MITのAIラボを立ち上げたことです。 知識の組織化や問題解決に関する発想が、教育とAI研究の両方をつなぐという歴史的背景を知ったとき、 私は思わず「これこそ自分が自然と惹かれてきた流れだったのか」と強く感じました。
自分の問いが、実は歴史の中で積み重ねられてきた問いの延長線上にあると気づいたとき、 研究は単なる個人の好奇心を超えて、より大きな物語の中に位置づけられます。 私にとって研究とは、そうした「知の連鎖」の一部に加わる営みであり、 遊び心、驚き、問い続ける力――それらを育て続ける旅なのです。