Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

研究テーマを決める

「何をやればいいか分からない」からの脱出

研究室に配属されたとき、多くの人が最初にぶつかる壁は「研究テーマどうしよう...」です。

でも大丈夫。あなた自身の「なぜ?」「どうして?」という問いから始めれば、必ず学術的価値のある研究テーマを見つけることができます。

当研究室では「自分の問いに立脚した研究」を最も重視します。完璧なテーマを最初から見つける必要はありません。「小さな改善の積み重ね」で、走りながら学んでいけばよいのです。

学部生と修士生の違い

学部生(8-12ヶ月):自分の問いを学術的な形にして、国内学会発表・論文投稿を目指します。 修士生(1.5-2年):問いをより深く掘り下げ、国際会議・ジャーナル論文を目指します。

どちらも「あなた自身の問い」から出発することが大切です。

あなたの「問い」を見つける

まずは素朴な疑問から

研究は壮大なテーマから始める必要はありません。日常の小さな「?」から始めましょう。

例:「なんでプログラミングってこんなに難しいんだろう?」 あなたがプログラミングを学んだ時、何が一番つらかったですか?エラーメッセージが理解できない?どこが間違っているか分からない?そもそも何をしているか分からない?

この素朴な疑問こそが、研究の出発点です。

「自分が困ったこと」「友達が悩んでいること」「なんとなく気になること」。こうした身近な問いから、学術的に価値のある研究が生まれます。

問いを育てる3つの方向

1. 「なぜ?」を深める 「なんでプログラミングが難しいんだろう?」 →「人間の思考プロセスと計算機の論理は、どこが違うんだろう?」 →「初心者が陥りやすい誤解パターンは、認知科学的にどう説明できるだろう?」

2. 「どうすれば?」で解決策を考える 「プログラミングの難しさを軽減するには?」 →「学習者の困っているポイントをリアルタイムで把握できないかな?」 →「個人の理解レベルに合わせた支援はどうやったら実現できるだろう?」

3. 「もしも」で可能性を広げる 「もし学習者の思考過程が見えたら?」 →「もし感情状態も考慮できたら?」 →「もしAIが学習者の癖を学習したら?」

あなたの問いを学術研究にする

ステップ1:問いの具体化

漠然とした問いを、研究可能な形に変換します。

素朴な問い:「なんでプログラミングが難しいの?」
↓
具体的な問い:「プログラミング初心者は、どんな瞬間に混乱するの?」
↓
研究可能な問い:「コード書写行動から、認知的混乱の瞬間を検出できるか?」

重要:完璧である必要はありません。「まずは小さく始める」ことが大切です。

研究テーマ設定時の概念意識

研究テーマを決める際は、**「この研究からどのような新しい概念が生まれるか」**を常に意識しましょう。

概念志向のテーマ設定

1. 現象から概念へ 単に「面白い現象を調べる」だけでなく、その現象から抽出できる本質的な概念を考えます。

現象:「プログラミング初心者が同じところで詰まる」
↓
概念:「認知的混乱の瞬間検出理論」

2. 概念の具体化 抽象的な概念を、研究可能な具体的なテーマに落とし込みます。

概念:「学習者の状態をリアルタイムで把握する」
↓
具体的テーマ:「キーストロークデータから学習状態を推定する手法の開発」

3. 概念の命名を意識 研究の成果を「○○理論」「△△効果」「××モデル」として名付けることを前提にテーマを設定します。

  • 「プログラミング学習の混乱パターン」→「認知的混乱の瞬間検出理論」
  • 「学習者の行動データ分析」→「学習状態推定モデル」
  • 「個人差に応じた支援」→「適応的学習支援フレームワーク」

このように、概念として名付けることを意識することで、より価値の高い研究テーマを見つけることができます。

ステップ2:技術的アプローチの検討

あなたの問いを解決するために、どんな技術が使えるでしょうか?

モデルベース・アプローチ 認知科学や学習科学の理論・モデルを活用します。 例:認知負荷理論を使って、学習者の負荷状態をモデル化

技術ベース・アプローチ 最新の技術を問いの解決に応用します。 例:機械学習を使って、学習者の行動パターンから状態を推定

どちらでも構いません。大切なのは「あなたの問い」を解決することです。

ステップ3:小さく始める

いきなり完璧なシステムを作る必要はありません。

例:「混乱検出システム」の場合

  • 最初:キーストローク間隔だけで混乱度を推定
  • 次に:マウス動作も追加
  • さらに:視線情報も組み合わせ
  • 将来:表情認識も統合

「小さな改善の積み重ね」で、研究を発展させていきます。

研究企画書:あなたの問いを表現する

【あなたの問い】
「プログラミング初心者は、なぜ特定の箇所で必ず詰まるのか?」

【なぜこの問いが気になるのか】
自分もプログラミングを学ぶ時に同じところで詰まった。
友達も同じ悩みを抱えている。きっと共通する原因があるはず。

【どうやって調べるか】
初心者がコードを書く様子を観察し、詰まる瞬間の行動パターン
(キーストローク、ポーズ、修正動作)を分析する。

【技術的アプローチ】
機械学習を使って、行動データから「詰まり度」を自動推定。
認知負荷理論をベースに、混乱の種類を分類。

【小さな第一歩】
まずは5人の初心者で予備実験。キーストローク間隔だけを分析して、
混乱度推定の可能性を探る。

【期待される成果】
- あなたの発見:プログラミング学習の「詰まりポイント」の解明
- 技術的貢献:行動データによる学習状態推定手法
- 実践的価値:効果的なプログラミング学習支援の実現

「最初は少し怖くても」挑戦する

新しい研究テーマは、最初は不安で当然です。「本当にできるかな?」「失敗したらどうしよう?」

でも大丈夫。走りながら学べばよいのです。

挑戦を支える心構え

1. 完璧主義は捨てる 最初から完璧な研究計画を作る必要はありません。やりながら修正していけばよいのです。

2. 小さな成功を積み重ねる 大きな目標も、小さなステップに分解すれば達成できます。

3. 失敗も学習の一部 予想通りに行かないことも、重要な発見です。「なぜうまくいかなかったか」を分析すれば、それも価値ある研究成果になります。

4. 指導教員・先輩との対話を大切にする 困ったときは一人で悩まず、相談してください。「厳しいけれど必ず成長につながる」環境があります。

よくある不安と向き合い方

「自分の問いが学術的価値があるか分からない...」 → あなたが本気で気になることなら、きっと他の人も同じことで困っています。それを技術的に解決することに価値があります。

「既に誰かがやってそう...」 → 完全にオリジナルな研究は稀です。あなたの視点、あなたのアプローチに必ず独自性があります。

「技術的に難しすぎるかも...」 → 最初は簡単な方法から始めましょう。複雑な技術は、問いを理解してから徐々に導入すればよいのです。

「時間が足りるかな...」 → 完璧を目指さず、「意味のある第一歩」を目標にしましょう。学会発表レベルの成果は十分達成可能です。

この章のまとめ

研究テーマは「あなた自身の問い」から始まります。理論や技術は、その問いを解決するための道具です。

完璧なテーマを最初から見つける必要はありません。素朴な疑問から出発して、小さな改善を積み重ねながら、走りながら学んでいけばよいのです。

大切なのは、あなたが本当に気になる問いに立脚すること。それがあれば、必ず学術的価値のある研究になります。