モデル・実装・分析の強み
工学的アプローチの核心
古池研究室の研究は、単なる理論構築にとどまらず、 モデル化 → 実装 → 分析 という一連の研究プロセスを一貫して行う点に特徴があります。
この一連のプロセスは、認知科学や学習科学の知見を実装レベルまで落とし込み、教育現場や学習環境で具体的に機能するかを確かめるための重要な枠組みです。
まず、モデル化では、人間の学習過程や問題解決過程を、工学的に扱える形で抽象化します。次に、実装では、モデルをソフトウェアやシステムとして具現化し、動作可能な形にします。最後に、分析では、実験や実践を通じて得られたデータを分析し、理論の洗練やシステム改善に活かします。
モデル駆動型研究の意義
古池研究室では、「とりあえず作って試す」のではなく、モデルに基づいて設計し、設計意図を実装に反映させ、分析でフィードバックを得る という流れを重視します。
例えば、CHUNK では、問題解決における知識のチャンク化(塊化)モデルを作成し、それを支援するインターフェースを実装しています。CLOVER では、エラーの発生と活用の心理的・認知的メカニズムをモデル化し、誤りを可視化するシステムを開発しています。OCEAN では、情報過多環境下での自己調整や意思決定を支えるエージェントを設計しています。
このように、モデル・実装・分析は互いに切り離せない連関を持ち、一貫した研究デザインの中で統合されます。
分析のスタンス
分析の段階では、主に 定量的な方法論を中心 に据えます。学習ログ、パフォーマンス指標、統計的比較、行動ログの解析といった定量分析を行います。また、知識構造の合理性、アルゴリズムの性能、インタラクションの最適性といった数理的・構造的分析も重視します。
一方で、必要に応じて質的な手法も併用します。インタビューや観察による学習者の内的過程の理解、システムの使いやすさに関する定性的評価、実践現場における文脈的な要因の把握などを通じて、量的データだけでは捉えきれない側面を補完します。
この柔軟で多角的なアプローチにより、システムの有効性を包括的に検証し、理論的貢献と実用的価値の両方を追求しています。
強みの根拠
この一連のプロセスが研究室の強みとなる理由は、理論と実践の架け橋として機能するからです。抽象的な理論をそのまま現場に適用することは困難ですが、モデル化・実装・分析を通じて、理論を具体的で検証可能な形に変換することができます。
また、実装を通じて理論の限界や不備が明らかになり、それがさらなる理論の発展につながるという好循環が生まれます。この循環により、研究室では常に理論と実践の両面から価値ある知見を生み出し続けています。
この章のまとめ
古池研究室のモデル・実装・分析の一貫したアプローチは、理論と実践を橋渡しする工学的な研究手法です。定量的分析を中心としながらも必要に応じて質的手法も併用することで、システムの有効性を多角的に検証し、理論的貢献と実用的価値の両方を追求しています。この手法により、研究室では理論と実践の好循環を生み出し、継続的に価値ある知見を創出しています。