ITS研究の特徴
ITSとは何か
ITS(Intelligent Tutoring Systems)は、学習者一人ひとりの理解、誤解、進捗状況に応じて、 個別化された指導や支援を行う教育システムです。 近年では、知識の伝達を超えて、モチベーション調整、認知バイアスの軽減、問題解決スキルの育成といった、 より人間的な学習の側面にまで範囲が広がっています。
ITS研究の学際性と多様性
ITS研究は、認知心理学、認知科学、学習科学、教育心理学、人工知能、知識工学、教育工学、 ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)、そして哲学の知見を横断的に取り込みます。 特に、「学びとは何か」「知るとは何か」といった根本的な問いを問い直しながら、 実践的な教育支援の実装へと落とし込む点に、ITSの学際的魅力があります。
古池研究室のアプローチ
古池研究室のITS研究は、数理統計的なアプローチが主ではありません。 むしろ、知識構造や情報構造の合理性を重視するアプローチを核としています。
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知識構造に基づく合理的支援 教材や課題、情報設計を、学習者の認知構造と整合的にデザインし、 認知負荷を減らしつつ本質的な理解を促進する。
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認知スキーマに基づくITS 人間が世界を理解する際に使うスキーマ(認知枠組み)に注目し、 その工学的モデリングと学習支援への応用を試みる。 このアプローチは「計算論的認知スキーマ」という独自のテーマとして展開されています。
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工学としての位置づけ 計算論的認知モデルの厳密さを目的とするのではなく、 あくまで工学的応用を念頭に、学習支援という実践的課題を解くことを優先する。
これらの視点は、既存のITS研究の中でも特異な立場を形成しており、 特に知識構造や情報構造を軸にした支援設計は、他の数理モデルベースのアプローチと一線を画しています。 もちろん、必要に応じて統計的・機械学習的技法を組み合わせ、 実践的に最適な支援方法を探る柔軟性も兼ね備えています。
この章のまとめ
- ITSは、個別化された知的支援を行う教育システムで、現在は認知や動機支援にまで発展している。
- 古池研究室は、知識構造や情報構造に基づく合理性を重視し、 認知スキーマを中心に据えたITS研究を展開している。
- 工学的実装を重視しつつ、必要に応じて統計・計算論的アプローチを柔軟に組み合わせている。