研究室のミッションとビジョン
核となる問い
古池研究室のミッションは、 「人間の思考と学習を最適化するシステムをいかに開発できるか」 という究極の問いに挑むことです。この問いは単に学習支援のためのシステム設計にとどまらず、「人がどのように情報を処理し、理解し、応用するのか」という人間理解の核心に迫るものです。
この問いに取り組むにあたり、研究室は複数の学問領域を統合的に用います。認知科学、学習科学、教育心理学、人工知能、知識工学、教育工学、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、哲学(とくに構成主義、表象主義、操作主義)といった領域の学際的知見を結集し、理論的基盤と実践的応用を往復しながら、研究を進めています。
ビジョンの構造
古池研究室のビジョンは、次の3つの柱に支えられています。
まず、学習を情報処理として捉えるという立場です。学習とは、情報の入力、保持、操作、出力といった過程の連なりです。この過程を詳細に分析し、認知的特徴を理解することで、学習を支援するデザインが可能になるという考え方をとります。
次に、情報構造と学習課題の設計を重視することです。優れた学習支援は、単なるインターフェース改善や手厚いフィードバックでは実現しません。学習者が向き合う課題そのもの、扱う情報の構造が洗練されていることが前提です。この考えに基づき、研究室ではオントロジー、知識構造化、モデル駆動型デザインを駆使し、課題設計に深いこだわりを持っています。
そして、知的診断とフィードバックの統合です。学習支援において、リアルタイムでの認知的診断と最適化されたフィードバックは不可欠です。研究室では、学習者の試行や誤りを分析し、個別化された支援を行うために、教育工学と人工知能の知見を融合させています。
プロジェクト群と挑戦の精神
このビジョンを具体化するために、研究室では複数のプロジェクトが展開されています。
CHUNKでは、知識のチャンク化(塊化)を通じ、学習の再利用性と拡張性を高めます。CLOVERでは、エラーに着目し、試行錯誤を価値ある学習活動へと昇華します。OCEANでは、情報過多の世界において、エージェントによる意思決定支援を行います。
これらのプロジェクトは、「挑戦」の価値を共有しています。研究室では、たとえ実験が失敗しても、仮説が棄却されても、そこから新しい問いや理論的洞察が生まれれば、それは大きな成果だと捉えます。「問い続ける者は失敗しない」――これが研究室に脈打つ精神です。
文化としてのビジョン
古池研究室では、特徴的な価値観が文化として根付いています。自主性を最大限尊重するが、孤立はさせない。問題提起は歓迎されるが、議論の場では徹底的に鍛えられる。個人の生活やキャリアの事情を尊重し、調整を惜しまない。成果主義ではなく、プロセス主義で成長を見守る。
これらの価値観は、研究室内のミーティング、個別相談、日常の雑談やイベントといった日常のあらゆる場面で体現されます。
この章のまとめ
古池研究室のミッションは、「人間の思考と学習を最適化するシステム」の開発です。ビジョンは、学習の情報処理モデル化、情報構造の設計、診断とフィードバックの統合に立脚しています。失敗や試行錯誤を肯定し、挑戦を文化として育む共同体として、自主性と協働、個人の尊重と知的鍛錬が共存する場として、独自の文化を築いています。