コラム:信頼のある場でこそ批判が生きる
研究では、批判や指摘をし合うことがごく自然に行われます。むしろ、それこそが研究の醍醐味であり、本質でもあります。
とはいえ、「指摘されるのが怖い」「自分の意見が否定されるのでは」と感じる人もいるかもしれません。そうした不安があると、本来は創造的であるはずの議論が、防衛的な空気になってしまいます。
だからこそ大事なのが、 信頼 です。
研究室やゼミでの議論は、個人同士が競い合っているのではなく、 共通の問題に対して知恵を持ち寄る場 です。つまり、敵味方ではなく、 「仲間同士で、難しい問いに立ち向かっている」関係 です。
このことが実感できているとき、たとえ厳しい指摘を受けたとしても、それを敵意ではなく、 対等な協力 として受け取ることができます。そうした土台は、形式的な議論だけでなく、 日常の関わりのなかで築かれていく ものです。
飲み会でも、BBQでも、ボードゲームでも、何でも構いません。研究室という空間で、 研究以外の姿を知り合えるような交流 があると、議論の空気は大きく変わってきます。
「この人も悩んでいるんだな」「思ったより似たようなことで詰まっているんだな」——そんな発見が、 批判を恐れない対話の雰囲気 を育てていきます。交流が苦手な人も、無理をする必要はありません。ただ、雑談をしたり、共通の活動をしたりする中で、少しずつ 安心して話せる関係 は築かれていきます。
また、 誰かの真剣な取り組みをからかったり、茶化したりしない空気 も大切です。お互いの関心やモチベーションを尊重し合うことが、 切磋琢磨と自由な探究心が両立する文化 をつくります。
誰かの挑戦が、誰かの刺激になる。誰かのつまずきが、他の誰かの理解を深める。そうした連鎖が生まれる場所では、批判も議論も、 建設的で前向きなものとして自然に機能 します。
研究には不安や孤独がつきものです。だからこそ、 「自分は一人ではない」と思えることが力になります 。研究室の仲間が、それぞれの問いを抱えながら同じ地平に立っている。そんな実感があるだけで、議論はぐっと柔らかく、豊かなものになっていくのです。
批判や対話が怖くなくなるのは、 知的に成熟するからだけではありません 。 人として、そこに安心していられることが、前提として何より大切 なのです。