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良い人生とは何か

人生について、真剣に考えたことはありますか?

「良い人生」とは何かについて、これまでに真剣に考えたことはありますか? 考えたことがある人は、どんな価値観や理想をそこに描いてきたでしょうか? 一方で、考えたことがない人もいるかもしれません。それは忙しすぎて立ち止まる余裕がなかったからでしょうか、それとも何を基準に考えればいいかがわからなかったからでしょうか?

この問いに即答できる人は、むしろ少数かもしれません。 けれども、進路選択や将来の職業像を考えるとき、その根底にあるのは「どんな人生を送りたいのか」という問いに他なりません。

この章では、研究という営みを本格的に考え始める前提として、「良い人生」という問いと一度丁寧に向き合ってみたいと思います。

幸せとは、快楽か、意味か

多くの人にとって、「幸せ」は人生の究極的な目的とされがちです。しかし、その「幸せ」はどのように定義されているでしょうか。

短期的な快楽—おいしいものを食べる、好きなことをする、ストレスがない状況—も確かに幸せの一部です。しかし、長期的な満足—成長実感、他者への貢献、深い人間関係、自分らしい選択—もまた、幸せの重要な要素です。

一般に、幸せには「快楽的側面」と「意味的側面」があります。 人は、短期的な快楽だけでは長続きする充足感を得られません。 自分が何のために生きているのか、どのような価値を他者や社会に提供できているのか という視点が、人生の充実感に大きく関与してきます。

幸せの構造と多様性

どのようなことが自分にとっての「幸福」の源泉となるかは、極めて個人的な問題です。

経済的安定を重視する人もいれば、他者からの承認を求める人もいます。自由な時間と空間を大切にする人、深い人間関係に価値を見出す人、世界の構造を理解することに喜びを感じる人、社会に影響を与えることに意味を見つける人—これらはすべて妥当な選択肢です。

重要なのは、自分が何によって満足や充実を感じるのかを、 意識的に把握しておくこと です。でなければ、周囲の価値観や流行に流されて、本当に望んでいない方向へ時間と労力を投資してしまうことになりかねません。

無意識に生きることのリスク

現代社会は、やるべきこと・選ぶべき進路・成功モデルの「テンプレート」が豊富に存在します。これは便利な一方で、自分で思考する機会を奪う側面もあります。

「とりあえず就職して、安定した生活を送る」「周りがそうしているから、自分も同じ方向へ進む」—こうした選択は決して間違いではありません。ただし、それが 本当に自分の納得した選択かどうか は吟味する価値があります。 人生という膨大な時間をかける営みにおいて、方向性の誤差はやがて大きな後悔へと変わる可能性があるからです。

「積極的に生きる」という選択

本書では、「積極的に生きる」ことを推奨します。 これは、単にポジティブ思考を持てという話ではなく、 自ら問いを立て、価値を定義し、選択に責任を持つ生き方 を意味します。

自分の価値を他人ではなく自分で評価し、世の中の問題に無関心でいるのではなく自分の問いを持ち、意味を他人に与えられるのを待つのではなく自らつくり出す—そうした積極的な姿勢こそが、真に充実した人生への道筋となります。

研究者という営みは、まさにこの「積極的な生き方」を具現化したものです。問いを持ち、思考し、社会や知の体系に貢献する——そうした営みは、短期的な報酬よりも深い納得感を与えてくれることがあります。

この章のまとめ

「良い人生」という問いに向き合うことは、研究のような思索的営みを選ぶ前提として重要です。幸せは快楽的側面と意味的側面の両方を含み、後者は特に自分の価値観と深くつながっています。無自覚な人生選択は後に後悔をもたらす可能性があるからこそ、自分なりの「良さ」を思考し、納得した道を選ぶ必要があります。研究という営みは、問いを持ち、意味を生み出す「積極的な生き方」の一形態として、人生に深い充実感をもたらす可能性を秘めているのです。