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結果の書き方

卒業論文で一番長くなるのは、たいてい結果の章です。 そして、指導教員の赤がいちばん入るのもここです。 イントロダクションは何度も書き直すうちに形が見えてきますが、結果の章は「何をどこまで書くのか」の判断が毎回違うので、型を知らないまま書くと際限なく膨らみます。

結果の章がやることは一つだけです。 観測されたことを、解釈を混ぜずに報告する 。 これだけです。難しいのは、書いている本人にとって、観測と解釈の境目がほとんど見えないことです。

観測と解釈を切り分ける

自分のデータを何ヶ月も見ていると、数字を見た瞬間に意味が浮かびます。 その意味のほうを書いてしまうのが、結果の章でいちばん多い失敗です。

観測:介入群の平均反応時間は 1.24 秒(SD = 0.31)、統制群は 1.51 秒(SD = 0.28)だった。
解釈:介入によって学習者の認知負荷が下がったため、反応が速くなった。

下の文が結果の章に入っていると、読者は事実と著者の主張を区別できなくなります。 「認知負荷が下がった」は測っていません。測ったのは反応時間です。 負荷の低下は、反応時間から著者が導いた推論であって、考察の章の仕事です。

判定の手がかりは、その文が 装置やデータから直接読み取れるかどうか です。 「〜が向上した」「〜が減少した」は多くの場合、観測です。 「〜が効いた」「〜のおかげで」「〜を示唆する」は解釈です。 書き終えたあとに、解釈に当たる述語を探して考察へ移すだけで、結果の章はかなり締まります。

ただし、完全な無味乾燥にする必要はありません。 どの結果が主要な発見なのかを、順序と分量で示すのは書き手の仕事です。 すべての数値を同じ重さで並べた結果の章は、読者にとって地図のない土地と同じになります。

順序を決める

結果を得た順に書くと、たいてい読みにくくなります。 実験は行き当たりばったりに進みますが、読者はその履歴に関心がありません。

順序の決め方は二つあります。 一つは、イントロダクションで立てた問いや仮説の順に並べる方法です。 問いが三つあるなら、結果も三つの節に分けて、同じ順で答えていく。 読者は、自分が抱えた問いが順に回収されていく感覚で読めます。

もう一つは、主要な発見から先に置く方法です。 分量の多い論文や、副次的な分析が多い場合はこちらが向きます。 いずれの場合も、節の見出しは「実験1」「実験2」ではなく、そこで何がわかったのかがわかる語にするほうが親切です。

図表と本文の分担

図表と本文が同じことを言っている論文は、読者に二度同じ作業をさせます。

図表は、個々の数値とパターンを示す場所です。 本文は、その図表のどこを見てほしいのか、何が読み取れるのかを案内する場所です。

冗長:表2に示すように、A群は 72.4%、B群は 65.1%、C群は 58.9% であった。
案内:正答率は A 群から C 群へ順に低下した(表2)。低下幅は A・B 間より B・C 間で大きい。

本文に数値を書くのは、その値が議論の中心になるときだけで十分です。 全部の数値を本文で繰り返すと、図表を作った意味がなくなります。

図表の番号は、必ず本文から参照します。 参照のない図表は、読者にとって存在しないのと同じです。 なお、表のキャプションは表の上、図のキャプションは図の下に置くのが多くの分野での慣例です。 図表の作り方そのものは 図表・統計・可視化の技法 で扱っています。

数値の書き方

有効数字は揃えます。 測定の精度を超えた桁を書くと、精度を偽ることになります。 反応時間を 1.2406 秒と書いても、装置の分解能が 10 ミリ秒なら、下の桁は意味を持ちません。

統計を報告するときは、検定の結果だけを書かないでください。 p 値は「差がどのくらいか」を教えてくれません。 効果量と、可能なら信頼区間を添えます。 サンプルサイズ、自由度、検定の名前も、再現のために要ります。

不足:介入群と統制群のあいだに有意差が見られた(p < .05)。
十分:介入群(M = 1.24, SD = 0.31)は統制群(M = 1.51, SD = 0.28)より速かった
      (t(58) = 3.42, p = .001, d = 0.89, 95% CI [0.11, 0.43])。

「有意傾向がある」「有意差が見られなかったが、差がある傾向が確認された」という書き方は避けます。 差が検出できなかったのなら、検出できなかったと書く。 そのうえで、検出力が足りなかった可能性を考察で論じるほうが、読者に対して誠実です。

思わしくない結果を書く

仮説と合わない結果、予想と逆の結果、差が出なかった実験。 これらを落とすと、論文としては嘘になります。

報告しなかった分析が存在することを、読者は知りようがありません。 だからこそ、都合の悪い結果を落とす操作は検出されにくく、分野全体の知識を静かに歪めます。 探索的に見つけた分析を、最初から仮説だったかのように書くのも同じです。 このあたりの規範は データ収集・分析と再現性 で扱っています。

思わしくない結果は、そのまま書けば済みます。 「差は見られなかった」と書いても論文の価値は下がりません。 むしろ、うまくいった実験だけが並んだ論文のほうが、査読では疑われます。

書き終えたあとの点検

結果の章を書き終えたら、次を確認してみてください。

  • 解釈を表す述語(示唆する、〜のため、効果的である)が残っていないか
  • 本文の数値と図表の数値が一致しているか
  • すべての図表が本文から参照されているか
  • イントロダクションで立てた問いのすべてに、対応する結果があるか
  • 統計の報告に、効果量とサンプルサイズが入っているか

最後の項目は、意外と抜けます。 自分の頭のなかでは自明でも、読者は数値からしか判断できません。