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学会発表(予稿・練習・発表)

学会発表は、研究活動のなかでもひときわ大きなイベントです。締切の前の数週間は研究室全体がざわつき、当日は朝から緊張で胃が痛い、というのが、毎年の風物詩のようになっています。それくらい消耗するイベントなので、できれば「成果報告」として軽く済ませたい気持ちも分かるのですが、僕は学生に、もう少し別の捉え方を提案するようにしています。

学会発表は、単に成果を報告する場ではありません。 研究者として育っていくための通過点 であり、自分の問いを知の共同体に差し出す機会でもあります。報告の場ではなく対話の場として捉え直すと、準備の仕方も、本番での立ち方も、終わったあとの整理の仕方も、ずいぶん変わってきます。

話し方、聴衆とのやりとり、質疑応答の技法といった発表そのもののスキルは、第6部:口頭発表 で扱います。 この節は、「発表というイベントを、研究プロセスにどう組み込むか」に焦点を当てます。

発表はプロセスの中間検証点

学会発表は、研究プロセスにおいて 中間検証点 のような役割を果たします。

自分の研究を他者に説明しようとした瞬間に、強みと弱み、曖昧なまま放置していた箇所が、いっせいにくっきり見えてきます。普段なんとなく「まあ大丈夫」と思っていた論点が、スライド一枚にまとめようとした瞬間に「あれ、これ実は説明できないな」と気づく。質疑応答で予想外の角度から突かれて、「そこは考えていなかった」という穴に気づく。そこから今後の方向性を見定め直す――発表は、研究の検証装置として機能するのです。

実際、発表を一回経るたびに、研究にはいくつかの確かな変化が起こります。 研究内容の論理が整理されること他分野の研究者から思いがけない視点が入ってくること研究の社会的な意義を言語化し直す機会が得られること 、そして 今後の研究計画の優先順位が更新されること 。この四つは、発表に行かなければ、なかなか起きません。少なくとも、自分一人で机に向かっているだけでは、ここまでまとまった形では起きない。

つまり、発表はゴールではなく、 研究を一段深めるための通過儀礼 だと考えてください。これが、この節の根っこにある捉え方です。

発表までを五つの段階で歩く

発表までの道のりは、人によって粒度はいろいろですが、五つの段階に分けて歩く考え方が現実的です。

最初は 予稿執筆 ** の段階。学会発表は、予稿の提出から始まります。多くの学生は、予稿を「事務的な提出物」として書こうとしてしまうのですが、これはもったいない。予稿は、あなたの研究と他者との ** 最初の対話 です。問題設定は明確か、方法や実験は十分に説明されているか、結論は過不足なく述べられているか、ページ制限のなかで要点が伝わるか。ここを丁寧にやると、予稿を書くこと自体が研究のブラッシュアップになります。逆に、予稿を雑に書いてしまうと、その雑さは本番のスライドにそのまま伝染します。

次に 発表準備 ** の段階。予稿が通ったら、本番に向けてスライドを組んでいきます。ここで気をつけたいのは、内容を覚える作業ではなく、 聴衆との対話を設計する作業** だということです。構成は聞き手にとって理解しやすい流れになっているか、制限時間に収まるか、スライドと口頭説明のバランスは適切か。そういう観点で全体を組み立て直しましょう。具体的なスライドの作り方や話し方は第6部に譲りますが、「誰に何をどう届けるか」という設計の意識は、技法以前の問題です。

三つめが リハーサル の段階。本番の前には、必ずリハーサルを行ってください。一人で通すだけではなく、メンターや同僚に聞いてもらうと、自分では気づけない改善点が必ず出てきます。話すスピードと時間配分、スライドの見やすさ、説明の論理の流れ、想定される質問への回答案。このあたりを実践的に詰めていく場です。リハーサルなしの発表は、僕の経験上、ほぼ確実に時間オーバーを起こします。練習でしか分からないものが、本当に多いのです。

四つめが 本番 の段階。当日の発表は、成果を披露する場であると同時に、知の共同体に自分の問いを投げかける場です。緊張は当然あります。大事なのは、緊張をなくすことではなく、緊張しながらも研究の核心を伝えることです。完璧な発表である必要はありません。質疑応答は、研究の盲点を教えてくれる貴重な時間です。うまく答えられなくても落ち込まないでください。むしろ、今後のヒントを無料でもらえるチャンスだと思ってください。「ご質問ありがとうございます。その点はまだ十分に検討できていませんでした」と正直に答えることが、立派な対応になる場面も少なくありません。

そして最後が 振り返り の段階。学会発表は、発表が終わった瞬間に終わるわけではありません。質疑で出た指摘、聴衆からの非公式なコメント、自分のパフォーマンスの感触――これらを整理して、次回の発表と、その先の研究計画にそのまま反映させましょう。一度で完璧を目指す必要はありません。学会発表は、反復するたびに上達する学習プロセスです。回数を重ねるごとに、確実に立ち方が変わっていきます。これは、何度も学生を見送ってきての、僕の確信に近い実感です。

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