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メンターとの対話

研究を進めるうえで、メンターとの対話は欠かせません。これは精神論ではなく、構造的な話です。研究は、自分の頭の中だけで進めると必ずどこかで詰まる仕事です。だから、その詰まりを別の角度から照らしてくれる存在が、どうしても要る。それがメンター――多くの場合、指導教員や先輩研究者――の役割です。

ただ、僕が長年学生を見ていてしばしば感じるのは、 メンターという言葉のイメージが、実際の役割と少しずれている ということです。多くの学生は、メンターのことを「答えをくれる人」「困ったときに助けてくれる人」「正しい方向を示してくれる人」だと、どこかで思っています。それ自体は間違いではないのですが、その捉え方だけだと、対話は薄くなります。

実際のところ、メンターはあなたの問いや迷いを一緒に掘り下げ、思考の道筋を整理する手助けをする存在です。つまり、 あなたの問いがなければ、メンターは動きようがない 。この一行が、この節の中心にあるメッセージです。

あなたの問いから始める

良いメンタリングは、あなたが何かを持って研究室に来た瞬間から始まります。逆に言うと、何も持たずに来てしまうと、どんなに優秀なメンターでも力を発揮できません。

最初に身につけてほしいのは、 進捗や課題を、自分の言葉で説明できるようにしておく という習慣です。論理がきれいに整理されていなくてもいい。途中で詰まっていてもいい。「今、何を考えていて、何が分からなくて、どこで止まっているのか」を、たどたどしくでもいいから話せる状態になっていてほしい。これだけで、対話の質はまるで違ってきます。

逆に、沈黙のままメンターに対話の主導権を渡してしまうと、メンター側も勘で話すしかなくなります。「最近どう?」「ええと、まあ、ぼちぼち……」というやり取りが続くと、結局その場限りの一般論しか出てきません。それは相手の時間をもったいなく使うだけでなく、自分にとっても得るものが薄い。

問いを持って臨む、というのは、難しいことを言いたいのではありません。「今週はXが分からなくて、たぶん原因はYで、Zを試そうと思っているのだけど、それでいいのか自信がない」――このくらいの粒度で十分です。これだけ揃っていれば、メンターは具体的に踏み込んでくれます。

メンターとの関係は人間関係である

もう一つ忘れないでほしいのは、 メンターとの関係は学習契約ではなく、人間関係である ということです。

学費を払っているのだから指導を受けるのは当然、というロジックは、たしかに制度としては正しい部分があります。でも、その制度的な前提だけで関係を運用すると、対話の温度はどんどん下がっていきます。実際の指導現場で動いているのは、敬意、感謝、信頼といった、ずっと人間的な要素です。

これは綺麗ごとではなく、結果に直結する話です。あなたがメンターに敬意を払い、感謝を示し、信頼関係を築こうとしているとき、メンター側も自然と踏み込んだアドバイスを返してくれるようになります。逆に、関係を「サービス受給」として扱っていると、対話は徐々に表面的になっていく。これは僕自身、教員側として何度も経験してきた感覚です。

関係そのものを大事にしようとする姿勢が、結局は対話の実りを決めていく。これは技法というより、もう少し深いところにある話です。

相手の時間をどう扱うか

ここでもう一歩、踏み込んだ話をします。それは、 相手の時間の価値は、あなたの時間と同等ではない ということです。

時給換算すれば、メンターの一時間は、学生のあなたの一時間の何倍もの価値があります。これは差別的な意味で言っているのではなく、単純な事実として、研究者としての経験年数が違えば、同じ一時間でできることの幅も深さも違うのです。だから、メンターに一時間もらったら、その一時間を無駄にしないために、あなたは自分の何倍もの時間をかけて、もらった助言を受け止め、噛み砕き、具体的な行動に変えていく必要があります。この非対称を忘れないでください。

そしてもう一点、ぜひ意識しておいてほしいことがあります。それは、 メンターがあなたに時間を割いてくれることは、必ずしも「学費の対価」として保証されているわけではない ということです。研究指導の多くの部分は、指導者側の善意や熱意によって成立しています。学費に含まれていると一般に考えられている範囲は、学生が思っているよりずっと狭い。深夜まで論文の添削をしてくれること、学会前のリハーサルに何度も付き合ってくれること、研究室外の進路相談に乗ってくれること――これらはどれも、当たり前ではありません。

だからこそ、対話の質を支える土台として、ぜひ意識しておいてほしいことが四つあります。感謝の気持ちを持つこと。相手の時間と労力を当たり前だと思わないこと。相手の時間の価値に見合うだけの準備と努力をすること。そして、自分の研究に自信と責任を持って向き合うこと。この四つが揃っているとき、対話は驚くほど深まります。

メンター側にとっての対話

最後に、これは僕自身の声として書いておきたい部分です。メンターにとっても、対話は一方的な労務ではありません。

学生の成長や挑戦を一緒に考え、行き詰まりを一緒に悩み、突破できたときに一緒に喜ぶ。これは、教員側にとっても、確かな意味のある学びであり、ささやかな喜びでもあります。だから、あなたが誠実に、真剣に、自分の問いを抱えて相談しに来てくれること自体が、僕にとっては嬉しい時間でもあります。

そういう意味で、対話は対等な営みです。あなたの誠実さや真剣さは、思っている以上にちゃんと相手に伝わっています。そしてそれが、巡り巡って、対話の質を静かに押し上げていく。メンタリングの好循環は、そういうところから始まります。