査読者への返答書作成
「査読者への返答書をどう書けばいいのだろう?」「どの程度詳しく説明すればいいのか?」「反論したい点があるが、どう表現すればいいのか?」 修正後再投稿の際に作成する返答書について、多くの研究者が悩みを抱えています。
返答書は、査読者との学術的対話を実現する重要な文書です。単に修正内容を報告するだけでなく、査読者の貢献を認識し、建設的な議論を展開する場でもあります。効果的な返答書により、査読者との信頼関係を築き、研究の質をさらに向上させることができるのです。
返答書の基本的な役割
対話の媒体としての機能
返答書は、著者と査読者の間の学術的対話を実現する重要な媒体です。査読者のコメントに対する具体的な対応を示すだけでなく、研究に対する著者の考え方や判断根拠を伝える場でもあります。
一方的な説明ではなく、「査読者の指摘を受けて、このように考え、このように改善しました」という対話的な姿勢で作成することが重要です。
修正の透明性確保
返答書により、どの部分をどのような理由で修正したかを明確に示すことで、査読プロセスの透明性を確保できます。これは査読者の理解を助けるだけでなく、編集者や将来の読者にとっても貴重な情報となります。
修正の根拠と過程を明示することで、研究の信頼性と著者の誠実性を示すことができます。
返答書の構成と形式
基本的な構成要素
効果的な返答書は、通常以下の要素で構成されます:
- 査読者への感謝の表明
- 全体的な修正概要
- 各コメントへの個別対応
- 追加的な改善点の説明
- 結びの挨拶
この構成により、読みやすく理解しやすい返答書を作成できます。
査読者別・コメント別の整理
複数の査読者がいる場合は、査読者ごとに明確に分けて回答することが重要です。さらに、各査読者のコメントを番号順に整理し、「査読者1、コメント1」「査読者1、コメント2」といった形で体系的に対応しましょう。
この整理により、査読者は自分のコメントへの対応を効率的に確認でき、見落としを防ぐことができます。
効果的な返答の技法
感謝から始める対応
各コメントへの回答は、まず査読者の指摘に対する感謝の気持ちを表すことから始めましょう。「貴重なご指摘をありがとうございます」「重要な点をご指摘いただき感謝いたします」といった表現により、建設的な関係を築くことができます。
この姿勢により、その後の議論も協力的な雰囲気で進めることができます。
具体的で明確な説明
「修正しました」という簡潔な回答だけでは不十分です。どの部分をどのように修正したか、なぜその修正を選択したかを具体的に説明しましょう。
「ご指摘を受けて、第3章の2段落目(p.15, line 23-28)を以下のように修正いたします:『修正前の文章』→『修正後の文章』。この修正により、〇〇の点が明確になったと考えます」といった具体的な説明が効果的です。
修正箇所の明示方法
返答書では、修正箇所を査読者が容易に確認できるよう工夫することが重要です。ページ番号、行番号、節番号などを併用し、修正版論文の該当箇所を特定しやすくしましょう。
大幅な修正の場合は、修正版で変更箇所をハイライト表示したり、別途修正箇所一覧を作成したりすることも効果的です。
異なるタイプのコメントへの対応
同意して修正する場合
査読者の指摘に完全に同意し、修正を行う場合は、その旨を明確に表明し、具体的な修正内容を示しましょう。また、修正により研究がどのように改善されたかも説明することで、査読者の貢献を認識していることを示せます。
「ご指摘は全くその通りです。この重要な点を見落としておりました。以下のように修正し、論文の質が大幅に向上したと考えます」といった形で、査読者への敬意を示すことができます。
部分的に対応する場合
査読者の指摘の一部には同意するが、全面的な対応が困難な場合もあります。このような場合は、対応できる部分と困難な部分を明確に分けて説明し、代替的な解決策も提示しましょう。
「ご指摘のうち、○○の点については以下のように改善いたします。ただし、△△の点については現在の制約により完全な対応は困難ですが、□□の方法により部分的に対処いたします」といった形で、バランスの取れた対応を示すことができます。
反論する場合の丁寧な対応
査読者の指摘に同意できない場合でも、礼儀正しく学術的な反論を行うことが可能です。感情的にならず、論理的根拠に基づいて丁寧に説明しましょう。
「ご指摘いただいた点について慎重に検討いたしましたが、以下の理由により現在のアプローチを維持することが適切と考えます:[理由1] [理由2] [理由3]。ただし、この点について更なる議論があれば、喜んでお答えいたします」といった形で、建設的な議論を促すことができます。
追加的な改善の報告
自主的な改善点の説明
査読者からの指摘以外にも、自主的に改善した点があれば、それらも返答書で報告しましょう。これは研究に対する真摯な姿勢を示し、論文の質向上への積極的な取り組みを伝えることができます。
「査読者の皆様からのコメントを検討する過程で、以下の点についても改善の余地があることに気づき、修正いたします」といった形で報告することで、継続的な改善姿勢を示せます。
関連する文献の追加
査読過程で関連する重要な文献に気づいた場合は、それらの追加についても説明しましょう。これは研究の文献レビューの完成度を高め、学術的な位置づけをより明確にすることにつながります。
言語と表現の工夫
丁寧で建設的な言葉遣い
返答書では、常に丁寧で敬意を示す言葉遣いを心がけましょう。批判的なコメントを受けても、感情的にならず、専門家としての尊敬の念を持って対応することが重要です。
「ご指摘いただいた通り」「貴重なアドバイスをありがとうございます」「この点についてより深く検討いたします」といった表現により、建設的な関係を維持できます。
明確で簡潔な表現
返答書は読みやすく理解しやすいものである必要があります。冗長な説明は避け、要点を明確に伝える簡潔な文章を心がけましょう。
ただし、簡潔さを追求するあまり、必要な説明を省略しないよう注意が必要です。査読者が理解に必要な情報は確実に提供しましょう。
技術的な配慮事項
書式と体裁の統一
返答書の書式と体裁を統一することで、プロフェッショナルな印象を与えることができます。フォント、文字サイズ、行間、インデントなどを一貫して使用しましょう。
査読者のコメントを引用する際は、イタリック体やインデントを使用して区別することで、読みやすさを向上させることができます。
長さの適切な調整
返答書の長さは適切に調整することが重要です。あまりに短すぎると不誠実な印象を与え、長すぎると査読者の負担となります。各コメントの重要度に応じて、適切な詳細度で回答しましょう。
重要な方法論的指摘には詳細な回答を、軽微な表現上の修正には簡潔な回答を行うなど、メリハリをつけることが効果的です。
査読者間の矛盾への対応
相反するコメントの処理
複数の査読者から相反するコメントを受けることもあります。このような場合は、それぞれの査読者の専門性や視点を考慮し、バランスの取れた対応を検討しましょう。
「査読者Aからは○○のご指摘を、査読者Bからは△△のご指摘をいただきました。両方の視点は重要であり、以下のようにバランスを取って対応いたします」といった形で、統合的な解決策を提示することが効果的です。
編集者への相談が必要な場合
査読者間の矛盾が大きく、統合的な対応が困難な場合は、編集者への相談を検討しましょう。「査読者間で相反するご意見をいただいており、より適切な対応についてご指導いただければ幸いです」といった形で、編集者の判断を求めることも可能です。
この章のまとめ
効果的な返答書は、査読者との建設的な対話を実現し、研究の質をさらに向上させる重要な手段です。感謝の気持ちを示し、具体的で明確な説明を行い、困難な指摘にも誠実に対応することで、学術コミュニティの一員としての信頼を築くことができます。返答書の作成を通じて、コミュニケーション能力と学術的思考力の両方を向上させることができるでしょう。