国内学会と国際会議
「まず国内で発表して、慣れてから国際会議へ」と言われることが多いですが、この二つは難易度の階段ではなく、得られるものが違う別の場です。
国内会議の強みは、議論の解像度が母語のぶんだけ上がることです。国内の現場でしか通じない制約や、なぜこの問題が日本の現場で重要なのかを、前提を共有したまま話せます。質問も実装や運用に寄ったものが出やすく、理論としては筋が通っていても現場では回らない部分を突いてもらえます。応用や社会実装を視野に入れた研究なら、ここがいちばんのテストベッドになります。もう一つの価値は、同じ顔ぶれと毎年会うことで関係が続くことです。懇親会で交わした一言が数年後の共著につながる、ということが起こります。
国際会議で得られるのは、自分が当然だと思っていた前提が当然ではないと気づく経験です。文化圏が変わると、問題の切り取り方も評価の軸も変わります。トップ会議の査読は採択率が10〜20%のことも珍しくなく、落ちてもコメントに国内では得られない論点が含まれています。英語で即興で答える筋力も、出てみないと鍛えられません。
発表の作法には差があります。国内で自然な「本研究にはこういう限界もあります」という入り方は、国際会議では「結局この研究は何をしたのか」と受け取られます。国際会議では 貢献を先に言い切る 構成にしないと価値が伝わりません。同じ内容でも、順序と強調を入れ替える必要があります。
英語発表では、流暢さより聞き取りやすさが効きます。一文を短く切る、主語と動詞を先に置く、専門用語は定義してから使う、図で伝わることを言葉で繰り返さない。日本の制度や慣習は国際会議では未知なので、「日本では○○が前提になっていて」と補うだけで質疑の中身が濃くなります。
使い分けの目安としては、育てている途中の研究は国内で議論を重ね、完成に近い研究は国際会議の査読にさらす。ただし順序に正解はなく、いま誰からフィードバックがほしいかで選んで差し支えありません。