コラム:なぜ「わからない」を大事にするのか
研究をしていると、誰もが「わからない」という壁にぶつかります。 最初は授業や文献の内容がわからない。少し進むと、実験や分析の結果が予想通りにいかない。さらに進むと、自分が何を問いたいのかさえ見えなくなることもあります。
けれども、この「わからない」という感覚は、実は研究の中でとても重要な役割を果たしています。 わからないからこそ調べ、考え、試し、そしてまた学ぶ。わからなさは、知的好奇心の源泉であり、探究のエンジンなのです。
逆に、「もうわかっている」「これで十分だ」と思った瞬間から、研究は停滞を始めます。 問いが立たなくなり、好奇心がしぼみ、知の前線から遠ざかってしまう。だからこそ、わからないことを正直に認め、その状態にとどまる勇気を持つことが、研究者にとって不可欠なのです。
不安に感じる必要はありません。 「わからない」という感覚を大事にし、それを問いに変えていく力こそが、あなたを研究者として成長させてくれるのです。
この「わからない」状態に耐える力は、詩人ジョン・キーツが「ネガティブケイパビリティ」と呼んだ概念と深く関わっています。不確実性や曖昧さの中にいながら、それでも探究を続ける能力のことです。
研究の初期段階では、このネガティブケイパビリティが特に重要です。答えが見えない中でも、問いを抱き続け、試行錯誤を重ねる。この過程で、徐々に方向性が見えてきたり、新しい発見があったりします。
そして、長期的な視点で見ると、この「わからなさ」への耐性は、心理学者アンジェラ・ダックワースが提唱する「GRIT」—情熱と粘り強さの組み合わせ—へと発展していきます。GRITは、短期的な成果よりも、長期的な目標に向かって継続的に努力する能力です。
研究において、一つの問いを深く追求し続けること、失敗や挫折を乗り越えて探究を続けること、これらすべてがGRITの要素となります。ネガティブケイパビリティで始まった「わからなさ」への耐性が、やがてGRITとして結実し、真の研究者としての基盤を築くのです。