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導入

お祝いと新しい冒険の始まり

おめでとう!

あなたは今日から「 (退屈で) 受動的な学び」の時期から、「(自由で!)能動的な実践」の時期に移行します。 なんと素晴らしいことでしょうか。

僕も過去にあったその瞬間を思い出すだけでも胸がワクワクします。

この本の作り方について正直に話します

本文に入る前に、どうしても先にお伝えしておきたいことがあります。

この本は大規模言語モデル(LLM)をフルに活用して書かれています。 全体の章構成や枠組み、伝えたい主張やトーンは僕自身が考えたものですが、各章の文章の起草、研究室で繰り返してきた話の整理、章ごとの語りの肉付けには、LLM を相棒として大きく使っています。素のままの僕一人の手で同じ範囲を一冊に編むのは、いまの仕事と時間配分のなかでは現実的ではありませんでした。

それでもこの本を出すことに踏み切ったのは、研究室に入ってくる学部生のための「研究の進め方」の地図を、「いつかきちんとした完成品が書けたら出す」と引き伸ばし続けるよりも、 多少粗削りでも今のうちに渡しておきたい と思ったからです。理想を待つあいだに、目の前の学生たちは卒業研究を始めなければなりません。地図を渡せないまま船出させるよりは、未完成な地図でも先に手渡したほうが、まだ役に立つ——そう判断しました。

ただし、その代償として、 本書は論文ほど厳格にはチェックされていません 。LLM が生成する文章には、もっともらしく見えて事実とずれている部分(いわゆる hallucination)が混じります。僕も全編を一字一句精査できているわけではないので、 誤った主張・存在しないエピソード・おかしな具体例のような嘘が、まだ残っている可能性があります

そういうわけで、お願いを二つ書かせてください。

  • 書いてあることをそのまま信じきらず、自分の目で確認しながら読んでください 。とくに事実関係・固有名詞・数値については、必要に応じて元の文献にあたってもらえると助かります。
  • おかしいと感じた箇所、明らかに事実と違う箇所、説明が不十分な箇所を見つけたら、ぜひ僕まで知らせてください 。連絡先は ウェブサイト にあります。あなたが見つけてくれた箇所を直していくことで、本書はだんだん信頼できる地図になっていきます。これは仕様であって、欠陥ではありません。

それから、はっきり書いておきます。 本書の内容を、僕がすべて深く理解して書いているわけではありません 。各章のテーマには、僕より遥かに詳しい専門家がたくさんいます。本書はあくまで、ある一人の研究者が、研究室に入ってくる学生に向けて、自分の理解の届く範囲で描いた地図です。

そういう前提で、ゆるく、しかし真剣に読んでもらえると嬉しいです。

そもそも「研究」って何でしょう

ここでいったん、言葉そのものに立ち戻っておきたいと思います。

「研究」という言葉自体は、実はとても抽象的な営みを指しています。要するに、 何かを深く知ろうとする、まだ誰もよくわかっていないことを、自分なりに解き明かそうとする ——それだけのことです。

だから、何を問うかはあなた次第です。誰かが「これを研究しなさい」と差し出してくれるものではなく、世界のどの隅っこに自分の手を伸ばすかを、あなた自身が選ぶ。研究の自由と難しさは、まさにここに集中しています。問いを差し出されないからこそ自分で立てる必要があり、自分で立てたからこそ、その問いに対して責任を持てる。

そう書くと急に身構えてしまうかもしれませんが、安心してほしいのは、その「自分の問いの立て方」を含めて、これから一緒に見ていくということです。最初から完璧な問いを持っている必要はまったくありません。

ありがちな最初の戸惑い

大学に入学して間もない頃や、研究室に配属されたばかりの頃、あなたはこんなことを考えたことはないでしょうか。

研究ってそもそも何だろう? 学会発表や論文執筆は本当に自分にできるのだろうか? 研究をしている人って、何か特別な人たちなんじゃないのか?

こうした問いは自然なものです。そして実のところ、長く研究をしてきた人であっても、折に触れて立ち返る根本的な問いでもあります。

この本は、そうした問いを抱えるあなたに向けて書いたものです。これから研究の世界に足を踏み入れる人、あるいはすでにその世界で歩み始めた人に、研究という営みのなかで僕自身が考え続けてきたことを、できるだけ正直に伝えたいと思っています。

研究は特別な人のためのものではない

研究とは、何か特別な人のためのものではありません。学部生として卒業研究に取り組むとき、修士課程で自分の問いを深めるとき、博士課程で世界に新しい知を提示するとき——あなたはその瞬間から、研究という営みのなかにすでに立っています。研究を職業にするかどうかは、ずっと先で考えればいい話です。まず、あなたが研究という営みのなかにいる、というところから始めたいと思います。

まず、生き方の話から始めます

ひとつ、先におことわりしておきたいことがあります。

この本はいきなり研究の方法やキャリアの話には入りません。第1部では、研究の手前にある 「どんな人生を送りたいか」「何を生産的だと考えるか」「困難とどう付き合うか」 といった、少し大きめの問いから始めます。

なぜそうしたのか。研究の質は、技法だけで決まるものではないと、僕はずっと感じてきたからです。何を問いに選び、なぜそれに時間を使い、結果が出ない時期をどう持ちこたえるか——こうした判断のしかたは、あなたがどう生きたいかと地続きにつながっています。だから先に、その「生き方の側」の話をしておきたいのです。

研究法を期待して開いてくれた人には、最初は迂遠に感じるかもしれません。それでも、第1部を飛ばさずに読んでおくと、第2部以降の実践の章が、ぐっと自分のものになるはずです。

読み方の手引き

この本は、できるだけ 卒業研究に取り組む学部生のあなた が、ひとりで読みながら自走できるように書きました。だから、まず読み方を一言だけ。

第1部から第5部までが、卒業研究の核 です。順番に読み進めてもらえれば、卒研期間にあなたが直面する大半の問題は、この本のどこかに地図が描いてあるはずです。

第6部から第8部は、もう少し先の話 です。論文投稿、査読、博士課程、研究者のキャリア、研究の未来——これらは、修士課程や博士課程に進んで、本格的に研究者として歩み始めた人が必要になる話です。卒研の段階では、目次でタイトルだけ眺めて「こういう世界もあるんだな」と思っておけば十分です。必要になったときに戻ってきてください。

それから、研究を続けていると必ず「手が動かない」「自分は研究に向いてないかも」といった瞬間が来ます。そんなときは、第1部の詰まったときのセルフデバッグ・ガイド自己正当化パターン辞典を開いてみてください。困ったときに引く辞書として書いてあります。

姉妹編との関係

この本には双璧をなす姉妹編があります。同じ著者による「教育AI/認知学習工学(FCL)の地図」がそれで、こちらは僕の研究室で扱っている WHAT ——何を研究するか、どんな素材・方法・歴史があるか、教育・学習支援システム研究という領野はいま何を問題にしているか——を扱う本です。

それに対して、いまあなたが手にしている本書は HOW ——どう問いを立て、どう論文を書き、どう査読と付き合うか、どう研究者として生きるか——を扱っています。

研究室に入ってくる学生さんには、二冊をペアで読んでもらえると、 「何を研究するのか」と「どう研究するのか」 の両方が手に入ります。姉妹編は研究室サイト https://koike-lab.org/ からアクセスできます。

あなたの歩みを支える小さな灯り

これから研究室に入るとき、あるいは進学を決めたとき、「何から手をつければいいのか」「どんな景色が広がっているのか」——その全体像を見渡す助けになることを願っています。

最初は少し怖くてもかまいません。わからないことだらけでも、走りながら学べます。この本が、あなたの歩みを支える小さな灯りとなりますように。

研究の旅への第一歩