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コラム:「正解」のない方法選択との向き合い方

初めて本格的な研究に取り組む際、多くの人が完璧な研究方法を見つけようと必死になります。 先行研究を読み漁り、「この手法なら間違いない」と確信できる方法を探し続ける。 このような完璧主義的なアプローチは、研究者の成長過程でよく見られる現象です。

しかし、ここで重要な認識が必要になります。 「完璧な方法は存在しない。どの方法にも長所と短所がある。 大切なのは、その選択の理由を説明できること」 この理解が、研究方法選択における大きな転換点となります。

よくある例として、アンケート調査による量的研究を選ぶケースがあります。 「客観的でサンプル数も多いから信頼性が高い」という理由から。 しかし、実際に予備調査を始めてみると、想定していた質問では 研究したい現象の核心に迫れないことが明らかになることがあります。

そこで、インタビューによる質的研究に方向転換を考える場合もあります。 しかし今度は「サンプル数が少ない」「主観的すぎるのでは」という不安が生まれる。 量的研究の「客観性」への憧れが判断を曇らせることも少なくありません。

重要な認識の転換は、研究方法の本質的理解から生まれます。 「量的研究も質的研究も、それぞれ異なる種類の『真実』を明らかにする道具である。 どちらが優れているかではなく、研究問いに対してどちらが適切かが重要」 この視点を持つことができれば、状況は大きく変わります。

効果的なのは、自分の研究問題を改めて整理し、 「なぜその方法が適切なのか」を論理的に説明できるよう努めることです。 探索的な性質、個人の体験の深い理解、文脈の重要性—— これらの理由を明確にすることで、選択に確信を持つことができます。

適切に選択された方法であれば、期待以上の洞察をもたらすことがあります。 参加者の生の声、感情の変化、体験の複雑さ—— これらは数値では表現できない、しかし研究問題にとって本質的な情報となり得るのです。

重要な学びは、方法論の選択が「正解探し」ではなく、 「最適解の構築」であるということです。完璧な方法は存在しませんが、 研究問題に対して最も適切で、その選択理由を説明できる方法は見つけられます。

効果的なアプローチは、「どの方法が一番いいか」ではなく、 「この問いには、どのアプローチが最も適しているか」と考えることです。 そして、選んだ方法の限界も素直に認めつつ、 その限界をどのように補完するかまで含めて設計することが重要です。

研究方法は道具です。ハンマーでねじは回せませんが、 ハンマーには釘を打つという素晴らしい機能があります。 大切なのは、自分の研究という「仕事」に対して、 どの道具が最も適しているかを見極める目を養うことなのです。