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創造と反復

研究はクリエイティブな営みか?

「研究ってクリエイティブですね」と言われることがあります。 たしかに、何かを新しく生み出すという点では、研究は創造的な営みです。 けれど、その創造は芸術やデザインのような「ひらめき」や「センス」によるものではありません。

研究における創造性は、 地味で地道な反復の中からじわじわと形になっていく ものです。

  • 論文を何本も読む
  • 調査や実験を何度もやり直す
  • 仮説を立て、検証し、破綻し、また考え直す
  • 書いては直し、読み返しては構造を見直す

そうした 「考え続ける時間の蓄積」こそが、研究における創造の実態 なのです。

反復からしか見えてこないものがある

初めて読んだときにはただの情報だった論文が、何度も読んでいるうちに構造や問いの含意が見えてくることがあります。 自分では完璧だと思っていたアイデアが、繰り返し人に話すうちに、根本的な見落としに気づくこともあるでしょう。

繰り返すからこそ、思考が深まり、視点が磨かれる。 それは単なる作業の反復ではなく、 同じ対象に何度も向き合うことで、思考の構造が洗練されていくプロセス です。

この「反復によって生まれる創造」は、研究者の態度の核をなすものです。

なぜ創造に時間がかかるのか

現代は「即時性」が重視される時代です。 すぐに答えが出る、すぐに役立つ、すぐに評価される——そうした期待が社会のあちこちに見られます。

しかし、創造とは本質的に「遅い」行為です。

  • 本当に面白い問いを見つけるには時間がかかります。
  • 深い理解や、意外性のある視点は、一夜にして得られません。
  • 書くたびに思考が更新され、表現が練り直されます。

「時間をかけて、考え続けることに耐える」こと。 この忍耐と継続のなかに、研究における創造の土壌があります。

創造性とは、才能ではなく姿勢である

「自分にはセンスがないから」「創造的じゃないから」と感じる人もいるかもしれません。 しかし、研究における創造性は、特別な才能ではなく、 問いを持ち続ける姿勢と、繰り返し考える意志 から生まれます。

つまり、創造とは何か思いつくことではなく、 思考をあきらめないこと なのです。

だからこそ、誰でも研究者としての創造性を育てていくことができる。 そしてその積み重ねが、やがて世界にとって意味のある知となって現れていくのです。

本節のまとめ

  • 研究における創造性は、ひらめきや才能ではなく、問いを持ち続け、地道な反復を積み重ねる姿勢のなかで育まれる。
  • 同じ対象に繰り返し向き合うことで、思考の深さや視点の解像度が増し、新しい発見や理解が生まれていく。
  • 創造は「即効性」や「効率」とは対極にあるプロセスであり、「考え続けることに耐える力」こそがその土台である。
  • 創造性とは、才能ではなく態度であり、誰もが鍛え、実践できるものとして位置づけられる。