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コラム:初めての学会発表で気づく「伝える」ということ

学会で初めて発表する日のことは、きっと誰にとっても特別な記憶として残ります。指導教員に「いい経験になるから」と勧められて出した予稿が思いがけず通ってしまい、採択通知を見て最初に思うのは「嬉しい」よりも「どうしよう」だった——というのも、よくある話です。本番までの数週間、スライドのデザインを何度も作り直し、発表原稿を一字一句暗記しようとする。「完璧な発表」にすれば緊張しなくて済む、と思い込んでしまう。気持ちはとてもよくわかります。ただ、振り返って言えるのは、暗記に走った時点で本番の自分の手をすでに縛り始めている、ということです。

当日、会場に入った瞬間に頭の中がすっと冷えて、そのあと真っ白になる——というのも、初めての発表ではありがちです。壇上に立って最初の数分、暗記した文章を思い出そうとして、スライドの文字を棒読みしてしまう。あとで録画を見返して、自分が思っていた以上にどもっていたこと、声が震えていたことに気づく。そういう瞬間に直面したことのある人は、決して少なくないはずです。

ただ、不思議なことに、数分経つと急に落ち着きが戻ってくることがあります。「暗記した原稿を再生する」モードから、「自分の研究について話す」モードに切り替わる瞬間です。研究の動機や、なぜそのテーマを選んだのかを自分の言葉で話し始めると、聴衆の表情が変わるのがわかる。身を乗り出して聞いてくれる人が現れる。原稿の暗記が外れた瞬間に、初めて聴衆と同じ部屋にいる感覚が戻ってくる、というわけです。

質疑応答でも、印象的な気づきが起こります。準備していた技術的な想定質問ではなく、「この研究の社会的意義をどう考えますか」「なぜこのテーマだったのですか」といった、もっと根っこの問いを投げかけられることがある。そのときに自分が本当に研究に込めた思いをそのまま話すと、質問者は深くうなずいてくれます。技術の説明よりも、動機を語ったときのほうが、明らかに場が暖まる——これは多くの初発表で起こる現象です。

発表後、研究者が話しかけてきて「研究への情熱が伝わってきた」「技術の話よりも、動機の部分が一番印象に残った」と言ってくれることがあります。そう言われた瞬間に、学会発表についての考えがひとつ変わる人は多い。 完璧な発表よりも、真摯な発表のほうが届く 。技術的に完璧でも、心のこもっていない発表は聴衆の記憶に残りません。逆に、多少つたなくても、研究への情熱や誠実さが乗っていれば、人は耳を傾けてくれる。これが、初発表で多くの人が手にする最大の学びです。

もうひとつ気づくのは、暗記ではなく理解に基づく発表のほうが、結局のところ強いということです。原稿を丸暗記すると、予想外の状況で対応できなくなります。棒読みのモードから抜けられるのは、原稿が頭から飛んだから、というよりも、自分の研究を自分の言葉で語る感覚を取り戻せたから。 自分の研究を深く理解して、自分の言葉で語れるようになることが、本当のプレゼンテーション力 だと、僕は思っています。

聴衆との対話を意識する、というのも、僕がいつも頭に置いているテーマです。一方的に情報を伝えるのではなく、対話するつもりで話すと、声の抑揚もスライドの切り替えも自然になります。質疑応答も同じで、「試練」ではなく「一緒に考える時間」として捉えると、建設的で楽しい場になる。

僕は発表の冒頭で、できるだけ「なぜこの研究をしているのか」を最初に語るようにしています。技術的な詳細の前に、動機や意義を先に置くと、聴衆に「この時間は聞く価値がある」と感じてもらえる。これは何度発表を重ねても変わらない実感です。失敗や予想外の結果についても、隠さずに話すほうがいい。完璧な成功談よりも、試行錯誤のプロセスのほうが、聴衆にとっては学びがあることが多いし、正直に話すほうが自分も楽です。

これから初めて発表するあなたには、完璧を目指すよりも、自分らしさを大切にしてほしいと思います。研究への想いをそのまま伝えるほうが、きっと心に残る発表になります。壇上で頭が真っ白になっても大丈夫です。その先にちゃんと言葉は戻ってきます。