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コラム:初めての学会発表で学んだ「伝える」ということ

初めて学会で発表することになった時の心境は、多くの研究者にとって忘れがたいものです。 指導教員からの「良い経験になるから」という勧めで応募したところ、 まさか採択されるとは思っていなかった、という経験は珍しくありません。

発表が決まってから本番まで、 多くの人が完璧なプレゼンテーションを作ろうと必死になります。 スライドのデザインを何度も変更し、 発表原稿を一字一句丸暗記しようとする。

当日、会場に着いて驚くのは、聴衆の多さです。 100人以上の研究者が座る会場を見て、 急に緊張で頭が真っ白になることがあります。

発表が始まると、さらに予想外のことが起きることがあります。 緊張のあまり、暗記していた原稿を忘れてしまう。 最初の数分間は、どもりながらスライドを読み上げることしかできない。

しかし、不思議なことに、数分経つと 急に落ち着きを取り戻すことがあります。 「暗記した文章」ではなく、「自分の研究について語る」 という感覚に切り替わる瞬間です。

「この研究を始めたきっかけは、実は個人的な経験からでした...」 そんな風に、自分の言葉で話し始めると、 聴衆の表情が変わることがあります。 皆が身を乗り出して聞いてくれている様子が分かります。

発表後の質疑応答で、印象的な質問を受けることがあります。 「この研究の社会的意義は何だと考えますか?」

準備していた技術的な質問ではありませんが、 自分が本当にその研究に込めた思いを語ることができます。 「〇〇で困っている人たちの役に立ちたいと思って始めた研究です」 そう答えると、質問者が深くうなずいてくれる。

発表後、何人かの研究者が話しかけてくれることがあります。 「研究への情熱が伝わってきた」 「技術的な部分よりも、動機の部分が印象的だった」 そんなコメントをもらうことがあります。

こうした経験から、学会発表の本質について 重要なことを学ぶことができます。

完璧な発表よりも、真摯な発表 技術的に完璧でも、心のこもっていない発表は 聴衆の心に響きません。逆に、多少つたなくても、 研究への情熱や誠実さが伝われば、人は耳を傾けてくれます。

暗記ではなく、理解に基づく発表 原稿を丸暗記すると、予想外の状況で対応できません。 自分の研究を深く理解し、自分の言葉で語れるようになることが 真のプレゼンテーション力です。

聴衆との対話を意識する 一方的に情報を伝えるのではなく、 聴衆と対話するつもりで発表すると、 自然で魅力的なプレゼンテーションになります。

質疑応答は発表の延長 質疑応答を「試練」ではなく、 研究をより深く議論する機会として捉えると、 建設的で楽しい時間になります。

多くの研究者が、数回の学会発表を経験した後、 初回の経験から学んだこれらの教訓を 発表スタイルの基盤として大切にしています。

特に重要なのは、 「なぜこの研究をしているのか」を 必ず冒頭で語ることです。 技術的な詳細の前に、研究の動機や意義を伝えることで、 聴衆に「この発表を聞く価値がある」と感じてもらえます。

また、失敗や予想外の結果についても、 隠すのではなく正直に話すことが効果的です。 完璧な成功談よりも、試行錯誤のプロセスの方が、 聴衆にとって学びの多い内容になることが多いのです。

初めての学会発表は確かに緊張しますが、 「研究者として成長する貴重な機会」です。 自分の研究を他者に伝える難しさと喜びを知り、 研究コミュニティの一員としての自覚も生まれます。

これから初めて発表される方には、 完璧を目指すよりも、自分らしさを大切にして、 研究への想いを素直に伝えることをお勧めします。 その方が、きっと心に残る発表になるはずです。